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第118話
翌日、僕は征治さんに行きたいところがあるから一緒に散歩に行こうと誘った。
「散歩?雨なのに?」
征治さんが不思議そうな顔をする。
そう、土曜日は朝から雨が降っていた。テレビの気象予報士は「今日、関東・甲信越も梅雨入りが発表されるかも知れません」と言っていた。
だけど、あいにくの雨、じゃなくて、ぴったりの雨かもしれない。
「車を出そうか?」という征治さんに首を振り、傘を手渡す。
二人で傘をさし、いかにも梅雨っぽいしとしとと降る雨の中を並んで歩く。
「どこへ行くの?」
「まだ、内緒」
マンションから最寄りの公園の入り口を入る。ここから目的の場所まで、この雨の中じゃ結構かかるかもしれないが、急ぐわけでもないし、いいだろう。
「山瀬さんが、泡盛とても喜んでいたよ」
「本当?昨日、篠田さんにも届けたよ。彼も焼酎とか泡盛が大好きだって。だけど真面目だから、先生の方からお土産もらちゃっていいのかって恐縮してた。僕がずっと不在で迷惑かけたお詫びなのに」
「詳しい事を聞き忘れてたけど、海琉 には上手く話せたの?」
「うん・・・少し嘘を混ぜたけど。天琉 が男娼をしていたことなんて話す必要ないと思ったから。借金に苦しんでるみたいだったって言った。それ以外は、ほぼ天琉が言ったとおりに伝えてきた。
両親に話すかどうかは海琉に任せたよ。だけど、海琉はこのままじゃ天琉が可哀想だから合同葬にされてる自治体に問い合わせて、玉城家の墓に移してやりたいって」
そんなことを話しながら公園の中を歩き続ける。
雨だから、殆ど人がいない。広大な敷地を通り抜けるために横切っている人がちらほらいるだけだ。
公園中央にある噴水広場が見えてきて、「あ、図書館に行くのかな?」と征治さんが言ったけど、僕は笑って首を横に振る。
人影のまばらな噴水広場を通り過ぎ、真っ直ぐ歩き続けると、右手に池とその奥に東屋 が見えてきた。
東屋へ向かう曲がり角で「もしかしてこっち?」と訊いた征治さんに頷くと、さっと顔に緊張が走ったように見えた。
そして暫く足を止め「二人でここへ来るのは・・・久しぶりだね」と雨が柔らかく水面を叩く池を見渡した。
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