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第120話

「・・・自分の弱さの原因だと思う過去の傷と向き合ってそれを乗り越え、もう誰かに護って貰う必要を感じなくなった、第4期」 「ふふふ、80%ぐらいの確率でそんな風に答えると思った。なんでそう思ったかは後で言うけど・・・それは正解じゃないよ」 「・・・じゃあ、正解は?」 征治さんが掠れた声で訊く。 「正解を言う前に・・・大体その答え、変だと思わない?第1期からずっと征治さん絡みで来てるっていうのに。それは僕の世界が征治さん中心に回っているってことじゃない。 つまり、僕のこの2年間の大きな変化は、全部征治さんのお陰ってことだよ。僕がいい方向に変わっていけているのだとしたら、全部征治さんがそうしてくれたんだよ。 正解はね、『何でもできて、優しくて強くて逞しい完璧な征治さんの横に胸を張って立てる様なりたくて、過去から逃げるのをやめにした、第4期』だった」 「だった?」 「うん。なんでかって言うと、ちょっと間違ってたって最近気付いたから。優しくて強くて逞しい完璧な征治さんっていうのは、間違ってた」 征治さんの瞳が不安げに揺れた。 「ねえ征治さん。征治さんは僕の醜い過去と問題だらけの心と体を丸ごと受け止めて愛してくれるって言ったよね? 僕が征治さんの償いの対象でなくなって、過去を払拭できて・・・もう(まも)らなきゃいけない存在でなくなったら・・・一言で言うと可哀そうな奴でなくなったら、今までと同じ様には愛せない?」 「まさか!今までだって陽向の事を可哀そうな人間だから愛したんじゃない!ましてや、償いなんかじゃ・・・ 確かに、もう一度陽向とやり直せることになったとき、これ以上陽向が辛い目にあったりしないようにどんなことをしてでも護ってやりたいと思った。 だけど俺は・・・陽向が陽向だから、愛してるんだ」 「僕だって同じだよ。征治さんが征治さんだから好きなんだ。 征治さんの優しいところが好きだし、その優しさが傷だらけの僕を癒してくれたのは本当だけど、傷ついて自力で立てないから護ってくれる征治さんを好きになった訳じゃない」 自分の手を固く握られた征治さんの拳の上に重ねて、瞳を覗き込む。 「僕ね、征治さんの強さや優しさに憧れて、尊敬してるから、少しでも征治さんに近づきたくて、横に並んで一緒に歩けるようになりたかったんだ。 だけど、必死になりすぎてそのことしか見えなくなっちゃって、また失敗しちゃった」 「失敗?」 「うん。焦っちゃったんだ。甘えてばかりじゃ駄目だ、怖がってないで自分で考えて行動して、自立しなきゃって。僕にちゃんと自信が付いたら征治さんに言いたいことがあったから。 だけど、そのせいでまた征治さんの気持ちを見落として、征治さんを傷付けて不安にさせちゃったよね?ごめんね」 「陽向・・・」 「さっき、80%ぐらいの確率であんな風に答えると思ったって言ったでしょ?あれは、今だからだよ。普段の征治さんなら、あんな風に言わない。いつも前向きに物事を捉えられるプラス思考の人だもの。 でも、今は傷付いて心が弱ってるから。じゃあ、どうしてそうなっちゃったのか」 僕は左手を征治さんの胸に当て、右手で征治さんの手を掴むと引き寄せて自分の胸に当てた。

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