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第121話

「僕たち、またここの(こえ)が聞こえにくくなってたよね? 僕は、自立したいといいながら、征治さんの事をまるで父親か神様みたいに、絶対的な存在にして甘え過ぎてた。言わなくても全部分かってくれるって。僕よりたった二つ年上なだけなのにね。 僕の事を深く愛してくれている分、僕の配慮の欠けた言動の一つ一つが征治さんに痛みを与えてたんだよね?征治さんは、本当は僕に言いたいことがいっぱいあったのに、言葉にしないで飲み込んでたよね?どうして?」 「俺は・・・陽向の叫びを聞いて・・・ また勝手な自分の思い込みで、陽向を苦しめていたのかと・・・だから陽向は俺に話せなかったのかと・・・また同じ失敗を繰り返したんだと思った。 陽向が本当に望んでいることを・・・陽向の心が発しているメッセージを見落としたせいで、また陽向を壊してしまったらって・・・怖くなって・・・」 そこまで言うと征治さんは俯いて両手で顔を覆ってしまった。 初めて目にする征治さんの弱々しい姿。 気付けば僕は両腕で征治さんを包み込んで、その背中を大丈夫、大丈夫と言うように撫でていた。そう、いつも征治さんが僕にしてくれていたように。 「何が正しいのか・・・どうすればいいのか、分からなくなった。 陽向が窮屈だと思うなら、飛び立てるようにしてやらないといけないと思うのに・・・どうしても手を離すことが出来ない・・・ 吉沢さんに出来たことが俺には出来ないって・・・」 ああ、征治さん、ごめんね。僕は、こんなに思い詰めるまで征治さんを傷付けてしまっていたんだね。 「ねえ、征治さん。芹澤に会って、孤独に怯える彼を前にして、僕はもの凄く芹澤の気持ちに共鳴したんだ。 同時に、僕はなんて幸せ者だろうとも思ったよ。僕は孤独を知っているけれど、今の僕には征治さんがいるって。そして恐怖も感じたよ。もし征治さんと再会できていなかったら、きっと僕も芹澤の様になっていたに違いないって。 それからね、田中さんがいつ死んでもいいと思いながら生きてるっていうのを聞いて、僕は違う、僕は征治さんと一緒に生きていくために過去の自分と対峙して排膿を完了させるんだって、強く思った。 ね?いつだって僕の中心には征治さんがいるんだ。 自分でも気付いてなかったけど、考えてみたら今回の『今の自分のために過去に決着をつける』っていうのも、征治さんが教えてくれた方法だよね?行方不明だった勝君を探し出して、何度無駄足になっても僕を待ち続けてくれて・・・慶田盛さんも説得して、僕を過去のわだかまりから救ってくれた。 芹澤と接するとき、いつも冷静でいられたのは征治さんをお手本にしたからだよ。弱っている人間にはそっと寄り添う。例え相容れない相手でも、その痛みを理解し思いやる。人の話はよく聞く。だけど言うべきことは、はっきり言う。そのおかげで、いい結果が引き出せたんだと思う。 だからね、もう征治さんは僕の内側にも深く浸食して根を張っているんだよ」

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