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第124話  <第11章>

東屋(あずまや)で愛情いっぱいのキスを交わした後、征治さんが「俺たちの部屋へ帰ろう」と僕の手を引いた。 雨が降ってなかったらずっと手を繋いだまま歩きたかったなんて乙女チックなことを考えながら、人もまばらな公園を引き返す。 でも並んで歩くだけでも気持ちはふわふわ浮き立ち、往きよりずっと晴れやかな表情になった征治さんと目を合わせて微笑み合うだけで、こぽこぽと温かいものが胸いっぱいに湧いてくる。 一度だけ、人気(ひとけ)の無いところで征治さんが傘で隠してキスを仕掛けてきた。 「不意打ち返しだ」 征治さんの台詞に噴き出すと、征治さんが照れくさそうな顔をして 「ほんとは我慢できなかっただけ」 と告白するので、また噴き出した。 部屋に戻ってからは、夕飯まで殆どソファーで引っ付いて過ごした。 そして、いろんな話をした。 互いに言葉が足りなかった今までの事、そしてこれからの事。 「結婚って、陽向はどういう風にしたい?渋谷区か世田谷区に引っ越して、パートナーシップ証明書を取得する?それとも、俺の戸籍に養子に入る?」 「あのね、制度的なのは二の次でいいんだ。僕が望むのは、互いを伴侶って言いきれる関係と・・・えへへ・・・マリッジリングに憧れてるの。 八神さんと花村さんが理想のカップルなんだ。二人ともしっかり自立しながら、でも互いに不可欠な存在って感じで。時々、花村さんが凄く優しい顔で自分の薬指の指輪を撫でてて、素敵だなあって。 征治さんはリングはめるの、抵抗ある?」 「全然。むしろ嬉しい。さっそく、明日見に行ってみる?」 「ほんと?えへへ、嬉しいな。内側に征治さんのイニシャルを彫りたい」 互いの指に揃いの愛のしるしが輝くさまを想像して、口元が緩む。 「ふふ、これで会社の女の子も征治さんにちょっかい出せないぞ」 気持ちまで緩んで心の声がこぼれ出た。 「会社の女の子?」 征治さんがキョトンとする。 ああもう、この人はいつも自分の方へ向いているベクトルに対しては、かなり無頓着なんだ。そのくせ、きっと返したシール容器には、そつなく洒落たスイーツでも付けて返しているに違いない。 「よし、最後の容器には僕が焼いたクッキーでも詰めてお返ししよう。負けないぞ」 「ん?クッキーが作りたいの?一緒にやってみよっか」 にっこり笑いながら僕の耳朶を弄って遊んでいるけど、征治さんが作ったんじゃ駄目なんだって。むしろ逆効果だってば。 「征治さんは、僕のだ」 そう言って首に噛り付くと 「ん?うん。陽向も、俺のだ」 とキスと共に返ってきて、満足する。(はた)から見れば、いい歳をしたとんだバカップルだろうけど、嬉しいんだからいいや。 夕飯の準備も、間に何度もキスを挟んで馬鹿みたいにイチャイチャしながら、二人で作った。

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