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第125話

ベッドルームのドアを開けるや否や、伸びてきた腕に絡めとられた。 「わっ!征治さん、まっ・・・」 「待てない。・・・俺がどれだけ待ったと思うの」 腕の中に閉じ込められ、きつく抱き締められる。 「ふふ、征治さん、違うよ。僕も『待ちどおしかった』、だよ」 食後にキッチンで片付けをしている時も、いつも以上にスキンシップを取っていたけど、それはさっきまでの可愛げのあるイチャつきではなく、これから始まる夜の営みを多分に意識したものに変わっていて、触れ合い視線が絡まるたびにじわじわと体温が上がっていくように感じていた。 征治さんの背中に腕を回すと、熱と欲情に(まみ)れたキスが落とされた。 逃さないというように右手で顎を、左手で後頭部を掴まれ、こじ開ける様に進入してきた舌に口内の奥深くまで(おか)される。 まさに貪るようなそれに、すぐに僕の中の欲も火を灯され、みるみるその火種は大きくなってゆく。 「んふっ・・・んん・・・んふん」 その鼻にかかった甘ったるい声が自分のものだと分かったが、性急なキスにそれを気にする余裕もない。 早くも腰が砕けて立っているのが心もとなくなって、征治さんの背中にしがみついた。 だけど、まだまだ足りない。 もっともっとと、征治さんの舌を求めて、絡ませる。 「んふ、ん・・・んんーっ」 舌を根元からきつく痛みを感じる程吸い上げられ、僕の内部でジュンと何かが噴き出した。まるで軽く()ってしまったかのように、体から力が抜けそうになる。 くずおれそうな僕を抱きかかえ、僕の唇を解放した征治さんをのぼせた頭で見上げると、痩せてより精悍になったともいえるその顔は、ただでさえ目力の強い瞳にはっきり欲を滲ませていて、余りのセクシーさに眩暈がした。 それなのに。 急に眉根を寄せ、切なげな顔して「陽向」って呼ぶもんだから・・・ ああ、今、僕は体だけじゃなく心も全部求められてるって、じわりと温かいものが胸に広がる。 「征治さん、ベッド行こう。早く一つになりたい」 今度は僕から征治さんに口付ける。 キスをしたまま、互いの体に腕を絡ませ、足を縺れさせながら移動して、二人してベッドに倒れ込んだ。 上になり、立てた両肘の間に僕を閉じ込めた征治さんが、指で僕の前髪をかき上げながら額に、瞼に、鼻先に、そして唇の際にキスの雨を降らせる。 「陽向・・・おかえり」 そう言うと、今度は愛おしそうに僕の頬を撫でる。 きっと、征治さんのこれまでの気持ちが「おかえり」の一言に集約されている。 もう二度と、この愛しい人を傷付けたり苦しめたくない。 僕も両手を伸ばして征治さんの頬や唇に触れた。 「征治さん、愛してる。何があっても離れないよ。どんな困難がこの先起こっても、二人で乗り越えていこうね」 ぱしぱしと眩しそうに目を瞬かせた征治さんが、目尻を下げて言った。 「もう、バンビちゃんなんて呼んだら失礼だね。立派な・・・しなやかで逞しい牡鹿に成長した」 「バンビでないと食指が動かない?痩せ狼さん?」 「ふふふ、まさか。はらぺこ狼はこの美しい牡鹿をがぶりといただくよ」 悪戯っぽく笑って、わざと舌なめずりをして見せた征治さんは、本当に僕の首筋にガブッと噛みついた。

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