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第139話  <第12章>

新しく買った高さ調節のできる折り畳み椅子のセッティングを終えたとき、陽向がキッチンから俺を呼んだ。 「ソースの最終チェック、お願い」 陽向が差し出したスプーンを口に含む。 ソースを舌の上で転がし、吟味。 「ばっちり。うまいよ」 陽向が顔を綻ばせる。が、すぐに眉が寄って”困った”という表情になる。 「征治さん、助けて。僕、征治さんみたいにセンスが良くないから上手く盛り付けられない」 カウンターに並んだ料理が、盛り付け途中で色々放置されている。 引き受けると、陽向は鼻歌を歌いながら使い終わった調理器具などを隣で洗い始めた。 ピンポーン。 インターホンの音に、陽向がいそいそと室内モニターの前に飛んでいく。 「風見くーん、こんにちは!」 モニターに映し出される花村さんとその横に立つ鼻の下までしか映っていない大男。 「いらっしゃい!最上階の一番奥でーす」 通話を切り、くるっとこちらを振り返り目をキラキラさせる陽向に、全く可愛いすぎると思いながら「こっちは任せて」と言うと、「サンキュ!」と返してパタパタと玄関に向かかって走っていく。 一番乗りでやって来た花村さん、八神さんと挨拶を交わす。 「素敵な部屋ですね。わあ、凄い借景だね!」 と花村さんがリビングの掃き出し窓の外に目をやる。 「バルコニーから見るともっといいんですよ」 陽向が窓のロックを外すと、 「ほんと?見せて見せて」 と、二人で仲良くバルコニーに出て外を指さし話し始めた。 「私達のマンションは湾岸地区にあるので、夜はそこそこ綺麗なんですけど、昼間は灰色のビルやマンションばかりで全く情緒がないんですよ」 低く落ち着いた声で話す八神さんは、体格は外国人並みだが日本男児といった風貌でキリリとカッコいい。 陽向が空手に入門するときに相談に乗って貰っているし、たまに直接稽古も付けてもらっているので世話になっている礼を言う。 「龍晟(りゅうせい)、見てみろよ。目の前全部が公園で凄い景色だから!」 手招きされて八神さんもバルコニーに出ていく。 陽向がニコニコしながら二人に自分が育てている花や、プチトマトとオクラのプランターの説明をしているのが見えた。 次にやって来たのは、花村さんの姉の(みどり)さんとその娘のくるみちゃん。 そして少し遅れて、田中さんも到着した。

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