141 / 144
第141話
食事が一段落し、退屈しないよう陽向が用意しておいたクレヨンと画用紙でくるみちゃんが絵を描くのに集中し始めると、大人の話題も出た。
「田中さんのルポ、反響大きいですね。他の雑誌でも二匹目のドジョウを狙ったような見出しを最近よく見掛けます」
と八神さんが言う。
「二匹目と言わず、三匹目も四匹目もやってくれればいいんだ。市民の目、社会の目がよりたくさんそっちを向けば、警察も放っておけずに動き始めるし、福祉担当の役人も重い腰を上げざるを得なくなる」
「そうよね。それこそが私達ジャーナリストのペンの力よ」
翠さんの言葉に皆が頷く。
「そういや風見君、芹澤からあの医者の話、聞いたか?」
田中さんが聞いた。
「はい、SNSのダイレクトメッセージを貰いました」
「何?それ知らないよ。あ、俺も聞いていい話?」
花村さんが訊ねる。
「あっちで、中高生の売春を斡旋するサイトを運営していた組織が摘発されたんだ。中学生の娘の行動を不審に思った親が、持たせていたスマホを持って警察に相談に行ったらしく、その履歴なんかから芋づる式に色々明るみに出てな。
その顧客リストに、弁護士や役人、大学教授とそうそうたるメンバーが載っていて、大きな話題になったそうだ。そこに、風見君の関わっていた組織と関係の強い『先生』も載ってたんだ。しかも、隣の市の大きな病院の小児科医だったことから大きな騒ぎになったらしい。
芹澤とは取材を通して連絡先を交換していたんだが『次はこのネタでどうだ』とわざわざ連絡を寄こしてきたんだよ」
それは陽向の為かも知れない、と思う。
芹澤と陽向はSNSを通じて交流を続けているが、芹澤は恋とまではいかなくとも陽向に対して特別な感情を持っているように感じる。
芹澤は陽向との約束通り、一日に一度はSNSになにかしらアップしているが、オープンでありながらその多くは陽向に向けたものだとわかるのだ。
だがそれが、今の芹澤の生きる支えになっているのであれば、それはそれでいいと思う。
ともだちにシェアしよう!