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第142話

食後に差し入れのケーキとコーヒーを用意しようと、下げてきた食器を食洗器に並べていると、キッチンに翠さんがやって来た。 「お手伝いするわ」 「いえ、お客さんはゆっくりしてください」 「いいのよ。みんなにくるみの相手して貰ってるから」 くるみちゃんはソファーに座った八神さんに肩車されながら、陽向に動物の絵を描いてくれとせがみ、花村さんは書き終わった絵に色を塗らされている。 田中さんはその様子をスマホで写真に撮っていた。 「じゃあ、ケーキをお願いしていいですか?」 キッチンとダイニングを仕切るカウンターにケーキの箱と皿を並べる。 カウンターの上に飾られている写真を見て、翠さんが微笑んだ。 「とてもいい写真ね。二人ともとってもいい笑顔。ワンちゃんまで笑ってる」 皿の上にケーキとフォークをセットしながら翠さんが言う。 「私、記者として国内外でいろんな人を見てきたけれど・・・ 他の動物と違って、人って人のせいで傷付いたり不幸になることも多いけれど、痛みを持つ人を救うのも人であることが多いと思うの。 究極のところ、人を生かしているのは人の『愛』なんじゃないかと思うわ」 その言葉は、深く胸に響いた。 翠さんの言う愛は広義の愛だ。だが、一般論として話しながら彼女の念頭にあったのは陽向の事だろう。 「そうかもしれませんね」 慈愛に満ちた緑色の瞳に、俺は頷き返した。 「そうだ、みんなで集合写真撮りましょうよ。私、くるみの成長を撮ろうと新しいデジタル一眼買ったのよ」 「姉貴、今日持ってきてるの?」 「ええ。あ、でも三脚が無い」 「翠ちゃん、多分俺のカバンに入ってるわ」 田中さんの三脚に翠さんのデジタル一眼レフをセットして、皆ソファーの周りに集まる。 「ほら、くるみ、(あお)くんのお膝においでー」 花村さんがデレデレと相好を崩して、くるみちゃんを手招きする。 だが、くるみちゃんはぶんぶんと首を横に振った。

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