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第3話
郊外を抜けた丘の上にある学園は、交通の便などまったく考えていない場所に建っている。叔父の話だとセキュリティ的にもマスコミなどからも自衛するためのもので、叔父はその学園も友人と共同経営しているらしい。
転入テストすらなく、すぐに転校手続きができたということにも得心がいった。
「世間が親のことで騒いでいたとしても、マスコミはこの広大な敷地までは無許可で入れないからな。政界、経済界、芸能界の子息が集っている。まあ、友達になっておけば、大介の将来も安心できるからな」
そのような思惑で友達になるのも何となく気が進まないが、別に無理はしないでいいな。
そんなことより、高校の飼育舎に残してきた牛のハナコがどうしているかの方が気になる。
バタバタしてしまって、飼育舎にお別れにいけなかった。ちゃんと嫌いな干し草の餌も食べているだろうかばかりが頭の隅に残っている。
車が停まると叔父は迎えに出た初老の男性に俺の荷物を渡して何やら告げると、こっちだと俺を手招く。
「荷物は?」
「寮に運ぶよう用務員に頼んだから安心しなさい。担任の先生に挨拶にいくから……」
明治時代の洋館のような建物は、俺には場違いな気がして思わずぐるぐると周囲を見回す。
学生たちが寮の方からぞろぞろと教室に向かっているようだが、テレビのアイドルや芸能人かのようなスタイルのよさで思わず息を呑む。
「大介、髪型も寮の中に美容院があるから、週末にでも眉など整えてもらえ」
寮の中には色々な施設があるようで、街に出なくても大抵のことはできるようになっているそうだ。
「俺はいつも、ムラヤマバーバーでやってもらってたから 」
「ムラヤマバーバー……。僕もそうだったが、あそこのオヤジさんまだ生きてるのか?」
懐かしそうに言う叔父に俺は強く頷いた。
「もう90とか言ってたけど、綺麗にしてくれるよ」
行くと戦争に行って兵士の髪を切っていたとか、そんな話をしてくれる。
もう暫く行けないのかと考えると少し寂しい。
「理事長、遅いですよ。もう少し早くきてくれないと、転校の説明とかの時間が」
職員室に入ると、少し焦ったようなロマンスグレーの品のよさそうな先生が叔父に詰め寄る。
もう学生が教室に向かっていたしなあ。
「おい、河村先生。転校生きたよ」
ロマンスグレーの先生が、若い教師を呼ぶ。
「悪いな、教頭先生。道が混んでしまってね。これが、甥の大介だ。よろしくお願いします」
叔父が教頭と、呼ばれた河村先生に俺を突き出して頭をさげる。
「田中大介です。よろしくお願いします」
「……2年生だよね。なんだか貫禄が……あるね。新任の先生かと」
河村先生は俺の様子を上から下までみつめ、驚いたような口調で告げた。
「……そうですか。身体が大きいから、かもしれませんね」
「大介はずっと祖父と北海道の奥地に住んでいたのでね。都会には慣れてないので、フォローをお願いします」
叔父は別の仕事に行かなくてはいけないのでと言いおいて、俺を残して去っていった。
かくして、キラキラな学園での俺の生活は始まったようだった。
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