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第5話
「そのまま授業に出たなら、まだ、寮に行ったことないんだな」
授業が終わると駒ケ谷から声をかけてきた。
まだ、他の生徒は何故か遠巻きに見ているだけなので、非常にありがたい。
支給されたものをカバンに詰めて教室を出ると、寮も案内すると言ってくれた。
「ああ、荷物は用務員さんが運んでくれたから、先生からはこれが鍵だと渡された」
カードで鍵と言われてもピンとはこないが、部屋の番号と俺の名前と写真と学籍番号が書いてある。
ひょいっと駒ケ谷
「ああ、これ学生証だから失くすなよ。えーと、308……。308かあ」
番号を見て、駒ケ谷は顔を曇らせる。
「308号室、何かあるのか?」
気になって横を見て問いかけると、カードを返して神妙な顔をする。
「同じクラスなんだが、あまり授業にこない仁川っていう奴がルームメイトだ。手癖が悪いから……何かされそうになったら、逃げろよ」
「何かされる?……タチの悪いヤカラなんだな。分かった、何かされそうになったら返り討ちにしよう。寮にいるのに授業にこないとか、意味がわからんな」
何のために学校に来ているのかよくわからないものだ。
暴力とか昔はよくうちの方でも流行っていたとは聞くから、都会にはまだそういうヤカラがいるのかもしれない。
「んー、大介の考えていることとは違うと思うけど、まあ、アイツ面食いだし、大介なら間違っても手は出されないだろうな」
うんうんと頷いて、駒ケ谷は寮の中に入っていく。
まるでテレビで見るホテルのような内装に驚きながら、駒ケ谷の後ろをついていく。
「オレは315号室だから、遠くはないよ。荷物の整理手伝おうか」
「荷物はそうは多くないよ。叔父に、今朝そんなものしかないのかって驚かれたよ」
エレベーターで上がって暫く歩き、ナンバープレートのかかった扉に立ち止まる。
「ここに、カードをかざして」
横についている四角い板を指さされて、カードをかざす。
扉を開くと中は真っ暗で誰もいないようだ。
「仁川いないみたいだな。よかったなあ。あ、これが荷物?」
もってきた部活で使っていたのデカいバックを掴まれて頷く。
「へえ、サッカークラブ……大介サッカーやってたのか」
「目が悪くなって、中学でやめちゃったけどね。キーパーだったよ」
バックを掴んで肩にかける。
「基本は2DK、寝室は狭いけど個室。トイレとシャワールームとキッチンとダイニングは共用」
俺の名前が書いてあるプレートを指さして、駒ケ谷は私物はあっちだよと教えてくれる。
「もったいねえな、またサッカーやろうよ。オレサッカー部の副部長だから面倒見るし」
「いや、ほとんど見えないからさ……」
「眼鏡、度があってないんじゃないか?」
ひょいっと駒ケ谷はオレの眼鏡をひっつかんでとる。
「って、見えないって」
「あ……。大介……って……」
「返してくれ、まったく見えない」
グラグラ歪む視界で、駒ケ谷は俺の顔を食い入るように見つめているのだけはわかる。
「あ、ごめん……。大介、眼鏡かけないほうが……」
「眼鏡がないと困るんだよ」
視界ゼロでは勉強すらままならない。
眼鏡をかけなおして荷物を置くと、駒ケ谷は荷物の中を覗きこんで残念そうな表情をする。
「服って……すごいな、そのセンス。どこで買うんだ?」
「ああ、村の洋品店で取り寄せてもらっていた」
「まあ、それが味かもしれないしな。そんだけな確かに手伝いはいらないな。じゃあ、一旦帰るな」
含みのある口調で言いながら、駒ケ谷は夕飯は食堂で出るから20時に迎えにくると言って出ていった。
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