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※第8話

「何かないの?」 揶揄うような口調と声で、扉を開いたのが仁川だと分かる。こいつが眼鏡をとったのだろう。 身体を起こしてぼやける視界で、仁川であろう顔を見返す。 金色の髪とぼんやりとした人形しか見えない。 「眼鏡を返して欲しいのだが……まるで何も見えなくて困るんだよ」 「……オマエ、田中かよ」 不審そうな声で言いながら、俺の肩をガシッと掴む。 「それ以外にないだろう。眼鏡を……」 「へえ、こりゃいいや。収まってからまた相手を探しにいこうと思ったんだけど、お前に責任とってもらおう」 眼鏡を返せという言葉を言えず、グイグイと腕を引かれてシャワールームを出る。 「待て。まだ下着もつけていない」 バスタオルだけを腰に巻いた、ほぼ裸でリビングまで来てしまう。 「着てもどうせ脱がすし、無駄だろ」 鼻先で笑われて、仁川の寝室へと連れ込まれる。 俺の何もない部屋とは違って、見慣れない機械やテレビなどがきっちり揃っている。 「しかし、裸なのだが」 「俺も脱ぐし、構わないだろ」 喉を鳴らすように笑われて、視界が悪く思わずふらついたところを、柔らかいベッドの上に押し倒される。 「重たい、どいてくれ」 「イヤだよ。分かってるだろ?」 仁川は俺の上からどく気すらないようで、頬を触り感触を楽しんでいる。 「分からない。ちゃんと体も拭けていないから、まだ色々濡れている」 「こんな綺麗な顔してんのに、なんであんなオッサンみたいな髪型や格好してんだ、田中」 「しっかりと学業をするのに、髪が目に入るのはよくないと、祖父が言っていた」 分け目を整えておかないと、目に入って余計に目が悪くなると祖父はよく言っていた。 「真面目かよ……。というか、1人ではするんだろ」 問いかけながら、仁川は俺の股間のものを軽く掴む。 そんなところを他人に掴まれたことはなくて、俺は驚いて手を払う。 「触るな。……自慰くらいは、たまにはするが。ていうか、な、扱くなッ」 手持ち無沙汰のように上下に動かされて、俺は奴の胸板を叩く。 「田中。ルームメイトだろ?助け合わないとだろ、ルームメイトは、こういう手助けもするんだぜ」 眼鏡がなくてよく見えないが、優しい声で言われて一瞬信じそうになる。 いや、いや、ルームメイトだからといってそんなことはしないだろう。 「仁川、俺にはその助け合いは不要だ」 「いいだろ?俺を助けてよ。さっきの子、田中のせいで逃げちゃったんだからさ」 手を払おうとすると、ぐいと腕を掴まれてしまう。 「絶対、気持ちよくしてやるからさ」 唇を寄せられて、ペロッと舐められると顎を掴まれてチュッと吸いつかれた。

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