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第26話
「樹生のは、昔からの悪い癖なんだ」
歩きながらポツポツと駒ケ谷の先輩である沢崎は話をしてくれる。
顔はよく見えないが、身長は俺よりも少し高い。
「アイツとは幼馴染でな、親の七光りもあるがヤツもカリスマ的なものがあって……、親にも過度な期待をもたれているし、周りもあんなだから逃げ場がなくてな」
「ともだち、なんですよね……」
声がしわがれてあまり出ない。弁護してくれる友達がいるだけ、まだ彼は救われるのだろう。
自覚しているからか、沢崎の言葉には久我は文句は言わなかった。
「そうだな。アイツがどう思っているかはわからないが。……あ、これ、お前のだろ。樹生から渡された」
沢崎はほいと眼鏡を俺に渡す。
手が震えてかけられない。
怖いとか思ったつもりはなかったのだが、身体は恐怖していたのだろう。
「辛かったな。もっと泣き喚くかと……思ってたのだが、無理しているのか」
優しい口調に折れていた心が少し和らぐ。
多分身体は大丈夫だ。
後遺症は残りそうだが、すぐに忘れてしまえる。
「……大介、無理するなよ。オレが言う……権利ないかもだけど」
俺の身体を支える駒ケ谷がギュッと拳を握っているのがわかる。
「……寮とは、こういうものなのか。……俺には慣れそうにない……」
不自然に男だけを集めたところでは、これが日常だというなら、どうやら俺には合わないだろう。
平気そうにみな過ごしているが、こんな目にみなあってるなら、メンタルはすごいなと感心する。
「いや……そんなことないけど。大介は……その、あの……すごく魅力的だから……。運も悪かったけど、でも綺麗な顔をしてるとそれだけで……」
駒ケ谷は言葉に詰まりながら、顔を俯かせる。
魅力的?
それは俺が悪いのだろうか。
「俺は眼鏡をしていない自分の顔はわからないが、女性的ではないとは思う」
「女みたいじゃないよ。なんて言うか、クールビューティっていうか……。まあ、眼鏡かけて七三にしておけば多分他には安心だと思うけど。仁川と同じ部屋だったのが、本当に不幸だっただけだ」
駒ケ谷の言葉には嘘はないようだ。
「とりあえず、駒ケ谷。将と同室なのも心配だ。今日はお前の部屋に泊めてやれ」
沢崎は上に立つものの立場を理解しているようで、駒ケ谷にあれやこれやを指示している。
「それと、登下校は俺が目を配ろう。だから、サッカー部に入るといい」
「え?!」
「駒ケ谷から、キーパー経験者だと聞いた」
「でも、目が悪くて……」
「いまはいいスポーツ用の眼鏡がある。明日は日曜日だ。外の眼鏡屋になるが、一緒に選びに行こうか」
沢崎は俺の肩を叩き、スポーツマンらしい爽やかな口調で勧誘するので思わず頷いていた。
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