26 / 41

第26話

「樹生のは、昔からの悪い癖なんだ」 歩きながらポツポツと駒ケ谷の先輩である沢崎は話をしてくれる。 顔はよく見えないが、身長は俺よりも少し高い。 「アイツとは幼馴染でな、親の七光りもあるがヤツもカリスマ的なものがあって……、親にも過度な期待をもたれているし、周りもあんなだから逃げ場がなくてな」 「ともだち、なんですよね……」 声がしわがれてあまり出ない。弁護してくれる友達がいるだけ、まだ彼は救われるのだろう。 自覚しているからか、沢崎の言葉には久我は文句は言わなかった。 「そうだな。アイツがどう思っているかはわからないが。……あ、これ、お前のだろ。樹生から渡された」 沢崎はほいと眼鏡を俺に渡す。 手が震えてかけられない。 怖いとか思ったつもりはなかったのだが、身体は恐怖していたのだろう。 「辛かったな。もっと泣き喚くかと……思ってたのだが、無理しているのか」 優しい口調に折れていた心が少し和らぐ。 多分身体は大丈夫だ。 後遺症は残りそうだが、すぐに忘れてしまえる。 「……大介、無理するなよ。オレが言う……権利ないかもだけど」 俺の身体を支える駒ケ谷がギュッと拳を握っているのがわかる。 「……寮とは、こういうものなのか。……俺には慣れそうにない……」 不自然に男だけを集めたところでは、これが日常だというなら、どうやら俺には合わないだろう。 平気そうにみな過ごしているが、こんな目にみなあってるなら、メンタルはすごいなと感心する。 「いや……そんなことないけど。大介は……その、あの……すごく魅力的だから……。運も悪かったけど、でも綺麗な顔をしてるとそれだけで……」 駒ケ谷は言葉に詰まりながら、顔を俯かせる。 魅力的? それは俺が悪いのだろうか。 「俺は眼鏡をしていない自分の顔はわからないが、女性的ではないとは思う」 「女みたいじゃないよ。なんて言うか、クールビューティっていうか……。まあ、眼鏡かけて七三にしておけば多分他には安心だと思うけど。仁川と同じ部屋だったのが、本当に不幸だっただけだ」 駒ケ谷の言葉には嘘はないようだ。 「とりあえず、駒ケ谷。将と同室なのも心配だ。今日はお前の部屋に泊めてやれ」 沢崎は上に立つものの立場を理解しているようで、駒ケ谷にあれやこれやを指示している。 「それと、登下校は俺が目を配ろう。だから、サッカー部に入るといい」 「え?!」 「駒ケ谷から、キーパー経験者だと聞いた」 「でも、目が悪くて……」 「いまはいいスポーツ用の眼鏡がある。明日は日曜日だ。外の眼鏡屋になるが、一緒に選びに行こうか」 沢崎は俺の肩を叩き、スポーツマンらしい爽やかな口調で勧誘するので思わず頷いていた。

ともだちにシェアしよう!