｢大介。服は貸すから、サイズそんなに変わらないよな｣ ついつい朝早く起きてしまって、手持ち無沙汰だったので三人分の朝食を作ってリビングで寛いでいると、起きてきた駒ケ谷が、自分の私服を貸してくれた。 ｢悪いな。服くらいは、部屋に取りに行くが｣ ｢いや……私服は、あれは……やめとこう。時間があれば、モールで選んでやるよ｣ 駒ケ谷は言いにくそうに言葉を選んでいるが、叔父も言っていたように、洋品店の服は好評ではないようだ。 ｢気を使わなくていいぞ。要するに、俺の服は都会で着るのは恥ずかしいということだろう｣ 田舎だと、別に綺麗に洗っていれば人の服装などは気にもとめないものだが。 特にこの学園の生徒は見た目とか、親のステータスみたいなものにこだわるようだ。 そんなものは、どんなに取り繕っても仕方がないものだと思うのだが。 ｢おはよう。すごい、和食？｣ 部屋から出てきた蜂屋はダイニングテーブルに並べた食事に驚いて椅子に座る。 ｢ああ、大したものではないが。材料は購買で買ってきた｣ 購買はなんと24時間営業という便利さで、欲しいものがすぐに手に入る。 ｢美味しそうな厚焼きたまご！味噌汁とか……田中、料理できるんだな。大体、食堂で食べてるから新鮮だよ｣ すっかり友好的な口調になっている蜂屋に、俺は頷く。 ｢大介の手料理か……嬉しい｣ 駒ケ谷はにこにこしながら、椅子に座るので俺も隣に腰をおろす。 ｢祖父と暮らしている時は、料理は俺の受け持ちだったのでな。気に入ったならいつでも作ってやるぞ｣ 駒ケ谷に告げると、いただきますと挨拶をして口にはこんで美味しいとぱくぱく食べ始める。 美味しそうに食べてもらえるのは、つくり手冥利につきる。 思い出したように駒ケ谷は、食べるのをやめて俺に告げる。 ｢9時に沢崎さんと校門の前で待ち合わせしているから。沢崎さんの家の車が迎えにくるって｣ ｢ああ、あの先輩には本当に世話になった。サッカーは目が悪くて中学でやめたのだが……今から入っても問題は無いのかな｣ ｢キーパーは今3年生の1人だけだからこれから不安だったんだ。そんなに部員も多くないから歓迎だよ｣ 中学まではサッカーに励んでいたが、眼鏡が壊れたら困るのもあってずっとやっていない。 農作業や牛の世話で力仕事はしていたが、多分身体も鈍っているだろう。 ｢それに、オレらが練習している間に大介が変なことされてないか不安だし｣ ｢……そうか。しかし、俺もそんなに弱くはないのだが｣ ｢ダメ。多勢に無勢で囲まれたらかなわないだろ｣ ｢確かに……｣ しかし、守ってもらうというのも矜恃にかかわる問題だ。 ｢オレが心配で、練習に身が入らないだけだから。それに、大介とサッカーできるの、嬉しいんだ｣ 爽やかな表情でにこりと笑われると、思わず吸い込まれるように頷いてしまう。 ｢なんかー、仲良いのわかるけど、おいてけぼり感がひどい｣ 唇を尖らせる蜂屋に俺はごめんねと言って、自分の分の厚焼きたまごをプレゼントした。