30 / 41

第30話

黒塗りのリムジンの前で俺は目を白黒させていた。 黒いスーツの男性が、後部座のドアを開いて待っている。 「七三分け?」 昨日は眼鏡がなくぼやけてほとんど姿はわからなかったが、沢崎は背が高く大人っぽい雰囲気をした落ち着いた雰囲気のある男で、男の自分が見ても格好良いなと思えるくらいに整った顔をしていた。 「いつもこのスタイルなので」 向かい合わせの席になっているふかふかの座席に腰をおろすと、にこりと微笑まれる。 「レトロも流行ると思うけどね。服はレトロじゃないんだな」 「服は、勇大に借りたので。それに、あまり、服とかを気にしたことがないし、センスもない」 俺がそう言って、ちらと駒ケ谷を見やると緊張したようにかちこちに座っている。 駒ケ谷もこの車に乗るのは初めてのようだ。 「でも、人間は中身だからね。外見ばかりを磨いても……中身が腐っていては仕方がない」 沢崎の言葉に、俺は同意して頷く。 「昔は樹生も将も、本当はいい奴だったんだよ。酷い目にあった君に言うと弁護するようになってしまうけど」 「別に彼らを加害者だから……憎いとか、そういう考えはもたないので。恨んだりもしないから気にしないでください」 助けてもらえたわけだから、それ以上に何かがあるわけでもない。 「2人を訴えてもいいだけのことは、君はされているよ」 静かに語る沢崎は、友達とは言え擁護するというわけではない。 贔屓目をしているわけではないから、特に腹もたたない。 「そういうことは、公にすると双方が傷をもつことになるから、俺は、彼らに分かってもらえれば……大事にはしたくはないです」 沢崎は俺の言葉に安心したような表情をする。 非難はしてもやはり幼馴染なのだろう。 「この話は、俺に任せてくれ。珍しく樹生がムキになっているのでね。あいつは、他人に否定されたことがない男なんだよ」 俺が考えていたことズバリそのままで、俺は素直に頷いた。手に入らないものがなかった人間が、手に入らないものを見つけたときにどう考えるのかなんて、心理学的に明らかなことだ。 「さて、重い話は後にして、そろそろショッピングモールに着くぞ」 言われて車の窓から外を眺めると、大きな建物の上の立体駐車場へと車をいれるところだった。 「あまり、村以外で買い物をすることがなかったから……何を買えばいいかわからないが……」 「チョイスはオレに任せてくれ」 駒ケ谷は嬉しそうに立候補するので、俺は任せるよとすぐに頷いた。

ともだちにシェアしよう!