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第32話
荷物を持って部屋に入ると、仁川が具合悪そうな様子でリビングに座っていた。
「ただいま」
軽く声をかけると、飛びつくように胸倉をつかまれる。
「どこへ行ってたんだよ……あの後タツキに……何かされたのかよ」
必死な表情に、そういえば仁川はあの時止めに入ってくれようとしてたなと思い出す。あれから心配してくれていたのかと思うと、1度は部屋に帰るべきだったなと思う。
「今朝、タツキがダイスケこっちにいないかって聞いてきたから……」
「昨日の夜までは久我の部屋にいた。何かはされたよ。だから勇大と沢崎さんが助けてくれて、勇大の部屋に昨夜はいた。心配してくれてありがとう」
頭を下げると荷物をリビングの隅に置く。
「助けられなくて……俺……」
「止めようとしてくれただろ。気にしないでいい」
「同じこと……俺もしたし」
「まあ、そうだな。でも、反省しているならいいだろう」
荷物を持って部屋に入ろうとすると、背後からがばっと抱きしめられる。
「タツキからも守るから……俺と付き合ってくれ」
情熱的な口調で囁かれるが、そういう気分にはなれない。
「……ごめんな。仁川にそういう気持ちはない」
男同士で付き合うという概念は俺には持ち合わせていない。この学園では日常茶飯事かもしれないが、そういうことに俺はまだ頭がついていかなかった。
生理現象ならまだ分かるのだ。
そこに感情が入るかどうかといえば、入らない。
仁川の身体を軽く剥がして、にこりと笑ってみせる。
「そんな顔をするな。別に嫌いなわけではない。沢崎さんも、仁川は本当はいいやつだと言っていた」
「……ワタルは優しいからな。頼れる兄貴みたいなもんなんだ。サッカーバカだけど……」
ぽつりと呟き仕方がないなと俺を見返す。
綺麗な金色の髪がふわりと揺れて顔が近づくと、柔らかい唇が俺の唇に触れて背中を抱き寄せられる。
唇と舌先の心地良さに鼻から呼気が漏れて、腰が震える。
「敏感だね……ダイスケ。諦めないけど、ここで引いてあげる」
唇を離すと、ごめんねと呟いてそのまま仁川は部屋に入っていってしまう。
俺はふらふらしながら部屋に入りベッドに突っ伏した。
身体が熱くてたまらなかった。
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