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第37話
「蜂屋、今日はオレも部長会に呼ばれてて……部活もないし大介と一緒に寮に帰っててくれないか」
1人で問題ないと断ったが、駒ケ谷は何かあったら遅いと言って、蜂屋に頼んでくれた。
そんな扱いしなくとも、多勢に無勢でなければ問題ないのだが、大体多勢に無勢が相場だろと断られた。
「俺も一緒に帰るよ」
話を聞いていたのか仁川が声をかけてくると、駒ケ谷は少し警戒するような表情をする。
「仁川……久我さんに加担しないよな」
探るような口調で駒ケ谷は相手を睨みつける。
あれから仁川は授業をさぼることはなくなったし、朝食も作ってくれる。
久我に逆らえなかったと悔しそうに告げた言葉には嘘はなかったと思う。
「ちゃんと守る」
「……勇大、俺もそんなに弱いつもりはないんだが」
俺が反論をすると黙っていてと駒ケ谷に制される。
ちょっと面倒だなと蜂屋を見ると、仁川の登場にぎゅっと拳を握りしめて怯えているようだ。
「蜂屋、大丈夫だよ。怖くないから」
声をかけると、恐る恐ると言った様子で仁川を見遣る。
「……ダイスケ、行くぞ」
時間がないと言って去りがたそうに、教室を出ていく駒ケ谷を見送るとぐいと仁川に腕を引かれる。
「仁川、ちょい速い」
蜂屋が追ってくるのが見えてたちどまる。
「ダイスケが俺のものになってくれたら、もっと全面的に守れるのに」
仁川の言葉に軽く息をつく。
どうしてそんなに、恋愛沙汰にしたいのだろう。
こんな衝動は学生時代のほんの一瞬でしかない。
答えることができないという負い目に、なぜか申し訳ないとか考えるのもいやだ。
「今日は部活はないよね」
校舎の入口を塞ぐように、久我と取り巻きが見えて予想どおりの展開に息を吐き出した。
なんだか、久我の顔を見ただけで心臓がいたいほど鼓動が増して、身体が動かなくなる。
ずっと見ていなかったから、油断はしていた。
「タツキ、ごめん。俺は、ダイスケの味方をするよ」
仁川にとっては初めての反抗なのか、驚いたように久我の表情が揺らぐ。思ってもない反応だったのだろう。
「……そう。将……わかりました。でもそんな悠長なことをしていても、彼は手に入らないよ」
困った子だねと笑うと、久我は優雅な足取りで近づいて俺の前にはだかった仁川の手をぐいと掴んだ。
「タツキ……帰って……くれ」
「今日はうるさい沢崎くんもいないのに、将が僕の邪魔をするの。そんなの許さない」
どこにそんな力があるのか、仁川の胸ぐらを掴んで床に投げ飛ばした。
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