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第7話
花苑の女の子もあまり話した事ない新井も去り、緊張が解けてホッとした。
「広世は乗らないの?」
「乗り継ぎがないから、一本遅らせる」
そう言う広世の目が細められた。楽しいこと思いついた子供みたいに。
「あのさ、野原の電車来るまで……ちょっと読む?」
一瞬何のことかと思ったけど、小説のことだとすぐ分かった。
「いいの? 読む読む! 電車すぐきちゃうから俺も一本遅らすよ」
小説を読むのは嫌いじゃない。短いの専門だけど。しかも同じクラスの奴が書いた小説なんて読みたいに決まってる。雰囲気からして推理小説とか、SFとか書いてそうだし。
さっき出た電車のお陰でベンチに空きができていた。二人並んで座れる場所を見つけて腰かけると、広世がひとしきり操作してからスマホを寄越した。
あれ、3章?
「これ、最初から読んでもいいんだよな?」
念のため確認すると、一瞬戸惑いの表情を見せた後「いいよ」と微笑んだ。目元がくしゃっとした、あまり見たことないはにかんだ笑顔。素の広世が見えた気がして胸の奥がくすぐったくなる。
そして、さっき見せた戸惑いの理由を俺はあとで理解することになる。
画面に表示されたそれは、予想に反して恋愛小説だった。
子どもの頃のいじめによるトラウマから、外面 はいいけど他人に心を許せない高校生の清海 が、無口な臨時の養護教諭の羽根田 悠と恋におちる。
来るもの拒まずで付き合っていた主人公は、羽根田先生を意識しすぎてなかなか素直になれない。
そんなプロローグがあって、一章は二人が出会ったばかりの頃から始まっていた。
清海 は別れたはずの先輩に「これで最後だから」と強請 られて、なし崩しに……、え…… と、えっちなしーんだ……。
駅の待合室でクラスメイトの真横に座って主人公が保健室で先輩に服を脱がされる場面を読む気まずさと来たら! それよりも、隣にいるのは書いた本人だし!
――「早くしろよ、誰か来たら困るのはお前だろ?」
そう促されて、清海 は諦めたように相手の下半身に手を伸ばした。既に硬く立ち上がったそこに触れれば、すぐにこれまでの事を思い出して身体が疼き出す。
先輩の掌が薄い胸を探るように這ってゆき、既に期待に膨らみかけた突起をとらえた。鬼灯 の実を揉むように両胸の粒を優しく指の腹で転がされると、身体は甘い誘惑に満たされてゆく。
「っあ ……、んんっ」
言葉にならない声を上げて捩る身を押さえつけ、その唇を ……
そうか、 清海は貧乳か、って! ちがう、これは小説だ!
意識しすぎ? 高校生なんだし、こんな小説でどきどきする俺の方がお子様かもしれないけど。読まれる広世は平気なのかと横をチラ見したら目が合った。全く気にしてない振りしてたのに実は俺の反応をうかがっていたのか。
そう思うと尚更恥ずかしくなって、血液が顔に集まってくる。こんなところで真っ赤になってるなんて絶対見られたくないから、さりげなく顔を反対方向に傾けてみたけど多分気付かれてた。
いや、絶対気付いてたよな!
俺の後ろから
「野原、赤い顔は見てないから大丈夫。もうすぐ電車がくる、きりのいい所でスマホ返せよー」
広世の声がした。
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