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第12話
ボタンを押して画面を閉じると、光る画面を直視していたせいが部屋がさっきよりも薄暗く感じる。
あれ?広世は、と思ったらいつの間にか隣にいて、棚に置かれた誰かの立体制作を見ていた。
準備室に二人きり、と思った瞬間心臓が小さくトクンと跳ねる。
大して興味もなさそうな顔して、手のひらに収まるくらいの不思議な形のブロンズ像を転がしている。綺麗な指が曲線をなぞり、形を手に写し撮ってるみたいだ。その光景を見てるのが心地よくて声をかけるのも忘れていたら、広世の方が気がついてこちらを見た。
狭い部屋の中でカーテン越しの薄明かり。ウェーブがかった漆黒の髪が広世の顔に影を落としてる。 細めた目、かすかに上がる口角。アルカイックスマイル、って美術で習ったな。あれ、世界史の授業でいってたんだっけ?
ところで、何この沈黙。
暑く感じるのは締め切られた空間のせいか、温暖化で気温が上昇してるせいか。
思い出したかのように心拍数が緩やかに上がり、おでこがじんわり痺れてくる。
広世が右手に持っていたその塊を棚に戻す仕草に反応して思わず体を動かしたら、何もない床に足を取られてバランスを崩した。
「わ!」
ガタッと音を立てて棚にぶつかるのと同時に片腕をぐっと掴まれていた。
「野原、大丈夫?」
何が起きたのかとっさには理解できなくて思考回路はフリーズ。気が付くとすごい間抜けな顔して固まってた俺を広世がのぞき込んでいた。
「野原?」
「は? あぁ......大丈夫、全っ然大丈夫!」
焦って口を開いたら思ったより大きな声が出て、広世が反射的に俺の口元に指を持っていった。触れていないのに、その指先の感触を俺は知ってる。そう思うと頭がくらくらしてきた。
「見つかったならよかった、出よう」
低い声でそうささやき、広世は困ったような顔で俺が立ち上がるのを手伝って、背中をそっと押しながら美術室に戻るよう促してくれた。
「ごめん......」
そうだ、本当は入っちゃいけない場所だし、本当は鍵があることも内緒なんだった。
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