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茶々丸の横をすれ違う女性達が、次々と振り返り熱い視線を送る。
それをものともせず、これぞキャットウォークと言わんばかりにモデルの様に颯爽と歩く。
隣にいる僕には、誰の目にも止まらない……
「………」
そういえば、健太郎の時もそうだったな……
ふと、僕の心にある傷口が疼く。
『……ごめんね、小太郎くん』
彼女から向けられる、悪気のない笑顔。
一ヶ月程前。
高嶺の花である杉本梨華から、突然告白を受けた。
密かに想いを寄せてはいたものの、なんで僕なんかを……とかなり戸惑った。
だって僕は、梨華ちゃんとまともに会話すらした事がなくて。多分、5秒以上目を合わせた事もない。
告白を受けた、あの日まで。
女の子と付き合うのは人生初めてで、どうしたらいいのか解んなくて……
女子人気の高い、幼馴染である前原健太郎に相談して、時には三人で遊んだりもして……梨華ちゃんとの仲を深めたつもりだった。
なのに……
『健太郎くんに話聞いて貰ってるうちに……どんどん好きになっちゃって……』
まるで惚気ともとれる、残酷な言葉。
僕は、夏休みを目前に
……振られた……
今まで健太郎に近付くために、女子から利用された事はある。
『……これ、良かったら使って』
模擬入試の時、消しゴムを忘れた僕に、隣に座っていた見知らぬ女子が、自分のを半分に割って、笑顔で差し出してくれた。
……あの梨華ちゃんが、僕を踏み台にする筈なんてない……
そう、思いたかった……
「どうした?小太郎」
僕の様子に気付いた茶々丸が、身を屈め目を細めて僕の顔を覗き込む。
「……わっ、」
ハッと我に返ると、視界いっぱいに茶々丸の顔がある事に気付いた。
慌てて後ろに一歩下がり、引き攣った笑顔を返す。
「………」
それでも茶々丸は、爽やかな笑顔を崩さず、更に顔をズイと近付けた。
「……何があったか、茶々丸に話してごらん?」
そう言いながら、僕の頬を指先でさらりと撫で、割れた唇からチロリと赤い舌を出して見せる。
「それとも、………慰めてあげようか?」
「……わぁ、……は、話します!」
その脅迫めいた雰囲気に圧され、僕は焦りながらこくこくと頷いた。
「……成る程、そういう事があったのか」
買い物を早々に切り上げ、カフェで一息入れた所で茶々丸に全てを話した。
「確かにあの時の小太郎は、どこか寂しげな目をしていたな」
「………」
彼女に振られ、雨にも降られ……
傘もなくずぶ濡れのまま帰路についた僕は、雨音に混じりミャーミャーと鳴く猫の声を聞いた。
見れば道端に捨てられた、数匹の猫。
その猫が入った段ボールの底には、雨に濡れ重くなった薄い布切れが一枚、敷かれてあるだけだった。
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