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……お前達も、捨てられたの? しゃがんで猫達をじっと見つめる。 濡れた前髪から雨の滴が垂れ、猫達の上にぽたぽたと落ちた。 ……ごめんね、うちはペット禁止だから…… 黒と茶色の猫、真っ白くて綺麗な猫、青色の猫、薄茶色の猫。 僕を見上げてミャーミャーと鳴く姿に、このまま立ち去る事なんてできなかった。 近くのコンビニで、牛乳とビニール傘と厚手のタオルを買う。 持っていたハンドタオルで簡単に猫の体を拭くと、段ボールの底にあったタオルを新しいものに取り替えた。そして、ビニール傘を差しながら、猫達に牛乳を飲ませてあげたんだっけ…… 「……!」 そんな事を思い返していた僕に、相向かいに座る茶々丸が身を乗り出し、浅黒くて大きな手を伸ばす。そして僕のもっさりとした重く長い前髪を、額が見える程に搔き上げた。 「小太郎は、自分が思う程悪い顔ではないぞ?」 「……え」 視界が急に開け、光が直接目に差し込む。と同時にズクン、と胸に打ち広がる不安感に驚く…… それが何だか解らなくて、そっと胸に手を当てた。 「キチンと身形を整えたら、きっとモテる」 動揺を隠せないまま目を伏せる。 そして茶々丸の手から逃れると、顔を隠すように何度も前髪を撫で下ろした。 「……そ、そんな事……」 「いや、なるよ」 僕から戻した手で頬杖をつくと、茶々丸は目を細めて僕を見つめる。 「……ミルクが嫉妬するくらいにね」 そう言った茶々丸の口が、綺麗な弧を描いた。 「……そうだ、その振った彼女を見返してやろう」 「っ、……えぇ……!」 茶々丸の意外な提案に、僕は驚きを隠せず声を上げてしまった。 「……ボクより可愛いなんて、ズルい!」 アパートに帰って早々、ミルクに可愛く睨まれる。 カフェでの一件の後、ショッピングモール内にある美容室に連れられた僕は、そこで茶々丸の思い通りの髪型にされてしまったのだ。 瞼までかかる少し厚めの前髪、長めの襟足。 チビ童顔の僕には幼く見えてしまうけれど……それは、まだいい…… ……問題は 「……これ、校則違反だし……やっぱり恥ずかしいから……」 ミルクティーの様な明るい色の髪を、身を屈め両手で隠しながら茶々丸に訴える。 「うん、それなら夏休みの終わりに黒に戻そうか」 それが何か?とでも言う様に、茶々丸がキラースマイルを僕に寄越す。 「……キナコみたいだな」 腕組みをし一人離れた所にいたアオが、ぼそっと呟いた。

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