6 / 81
4
〈健太郎、明日空いてる?〉
《おう》
〈もし大丈夫なら、ダブルデートしない?〉
《……はぁ?!ダブルデート??》
〈うん……〉
《って、……は?》
仄暗い部屋の中、ラインを表示したスマホの画面から明るい光が放たれる。
『……じゃあ、明日にしよう』
茶々丸が二人に相談を持ち掛けると、可愛い女の子の服が着られるとあって、ミルクだけが賛成した。
僕の彼女役には、ミルク。
思いっ切り彼女の前で、イチャイチャして見せ付けてやろう……という、逃がした魚は大きい作戦。
〈実は、デートに誘われたんだけど……どうしていいか解んなくて〉
《……マジか…》
〈うん、どうかな?〉
一旦そこで返信が止まる。
もしここで断られたら……と思うと落ち着かない。
……でも、もしかしたら断られた方がいいかも……なんて思ってしまう。
スマホを握りしめたまま、ふぅっと溜め息をつく。
どういう理由であれ、健太郎に嘘をついて利用する事に変わりはないから……
折り畳んだ膝を抱えたまま、スマホから顔を離す。と、体を丸め布団の隅で眠っている三人の姿が視界に入った。
「………」
……僕があげた牛乳のせいで、突然苦しくなったって……アオは言ってた。
体を小さく丸め倒れていたアオの腕の中には、ぐったりとした二匹の猫。
アオの肋骨辺りが激しく上下し、苦しそうに口を開けている。
何で裸の人が、玄関前に……
……そんな事を一瞬思ったりもしたけど、やっぱり放っておけなくて……
「……!」
《さっき梨華に確認とった》
バイブに気付きスマホに目を移す。
画面に表示された返信文に、ズキンと胸が痛む。
……梨華って、呼び捨てにしてる……
「………」
確か終業式までは、杉本って呼んでた。
いつの間に、下の名前で……
目の奥が熱くなり、じわりと視界が滲む。折り曲げた人差し指で、濡れた下瞼の縁をそっと拭った。
〈どうだった?〉
そう打ち込んでからハッとする。
……梨華ちゃんは、僕と顔を合わせづらくないのかな……
《OKだってさ》
「……そっか」
小さく呟き、再び目を擦る。
案外、強いんだな……
「………」
返信が届く度に
気持ちがどんどん沈んでいく……
なんでだろう……
……振られた時より、苦しい……
ともだちにシェアしよう!