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ガリッ…… 爪を立てたミルクは、思いっ切り引っ掻いてその肉を抉った。 白い線が縦に3本入った後、じわりと滲む赤い血…… 「……いってぇ!」 男の呻き声。 それに反応した人達が、こちらをチラチラと見た。 その刺さるような視線に堪えきれなかったのか……顔を歪め腕を押さえた男は、サッと立ち去った。 「………」 ……嫌な感じの人だったけど なんか……ちょっと可哀想だったな…… 小さくなっていく男の背中を見つめる僕の隣で、ミルクが可愛く溜め息をついた。 「……あーん、爪割れちゃったぁ」 男を引っ掻いた爪をまじまじと見たミルクの眉尻が下がる。 その変貌に驚かされながらも、 「見せて」 ミルクの細くて白い手を取った。 キティの絆創膏をしたミルクの指先が、グラスに刺さったストローをくるりと掻き回す。 カラン、と氷が鳴り、グラスの表面に付着した水滴が足元へと滴り落ちる。 健太郎達と落ち合った後、とりあお茶でも飲もうという話になり、一番近いカフェに入った。 ……のはいいけれど…… 僕の相向かいに座る健太郎は押し黙ったまま、視線を他所に向けている。 「……健太郎?」 声を掛けて顔を覗き込めば、一瞬合った視線を直ぐに逸らされてしまった。 「……てか、どうしたんだよその髪」 「……えっ、あ。……これは……」 苦笑いしながら片手で髪に触れると、隣に座るミルクが僕の肩に擦り寄った。 「ねぇコタロー、ミルクこれ食べてみたぁい」 メニュー表を僕に見せながら指差したものは、チョコレートパフェ。 ……あれ、確か猫ってチョコレート食べちゃ駄目なんじゃなかったっけ……? 「ミルク、これチョコレート……」 そう言ってミルクの方に顔を向けると、すぐそこにミルクの顔があった。 「……っ!」 その距離の近さに驚き、ビクンッと肩が跳ねる。 「……ち、近っ……」 「うん、だってコタロー、可愛いんだもんっ」 「……か、かわいくは……」 ミルクから少し身を離せば、その隙間を埋めるように距離を詰められる。 「……み、ミルク……」 ミルクの手が僕の太腿に触れ、直ぐにスルリと内側へと滑る。 と同時に、匂いを嗅ぐように顔をスッと寄せると、鼻先が僕の首筋につん、と当たった。 ……い、イチャイチャするにも程があるよ…… 身を捩って逃れようとするも、ミルクはそれを許してくれない…… 「……ゃめ……、」 二人に見られているかと思うと、羞恥で余計に顔が熱くなる。

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