11 / 81

4

「止めろよ、そういうの!」 眉尻をつり上げ、鋭い目付きをした健太郎がそう言い放つ。 「困ってんだろ、さっきから」 その言葉に、ミルクの手がゆっくりと離れる。 ……健太郎…… 『止めろよ、そういうの!』 小学生の頃。 健太郎はそう言って、僕をからかうクラスメイトから助けてくれた…… 最初は友達でもない、ただのクラスメイト。 健太郎は地味な僕とは違い、キラキラした集団の中にいて…… 僕とは別世界の人間だと思っていた。 『何かあったらすぐ俺に言えよな』 ……それがいつの間にか、僕の一番近くにいて、守っていてくれていて…… 「……け、健太郎……」 慌てて口を開くと、それをミルクが遮る。 「そうかなぁ…… ……コタローはさぁ、ボクに慰められると、可愛い顔して鳴いてくれるよ?」 ミルクの眉尻がつり上がる。 ニヤリと口角を上げ、大きな瞳は鋭く健太郎を睨む。 挑発的なその態度に、僕は慌ててミルクを止める。 その意味深な台詞の意味もわからずに…… 「……ミルク、止めて……!」 一触即発状態の二人。 今にも立ち上がりそうな、ミルクの腕を掴む。 「んだよそれっ!」 健太郎がそれに乗っかり、勢いよく立ち上がる。 「……ナニって。そのままの意味だよぉ」 更に挑発したミルクは、掴まれた手を簡単に外すと、僕の後頭部に手を回し…… 「……え」 ぐいっと引き寄せられた僕は 二人の見ている前で 唇を、奪われていた……… *** 「………」 ダブルデート中の空気は見事にぶち壊れ、カフェを出た後、健太郎達とはすぐに別れた。 帰り際、貼り付けた笑顔の梨華ちゃんが、健太郎の手を握る姿を思い出す。 「ミルクはぜんっぜん悪くないっ」 アパートに帰ってからも、ミルクはふて腐れながらそう言い放つ。 僕にした事や、協調性を欠いた行為は全く反省していないらしい…… 茶々丸とアオは、冷たい床が気持ちいいのか……床に丸まってよく眠っていた。 起こさない様にそっと近くを通ると、二人の獣耳がピクッと動く。 「……あの健太郎ってヤツ、なーんかむかつくんだよねぇ……」 服を脱ぎ捨てながら、嫌悪を露わにした顔つきで独り言のように呟く。 「………」 反省はしていないらしい。 ……だけど、僕の事を思ってやったのだというのは伝わる。 ……だからこそ…… 「………」 口を閉ざしたまま部屋から出た。 「……ねー、聞いてよ茶々丸ぅ」 ミルクの甘えた声が、閉まるドアの隙間から聞こえる。 僕はポケットからスマホを取り出した。

ともだちにシェアしよう!