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首筋をつぅ、と流れる汗。
それをハンドタオルで拭う。
もう何度目だろう……
全開の窓の下には、フル稼働中の首振りの扇風機が一台。
生暖かい風が当たると一瞬だけ心地よくなるけれど、この蒸し暑さを解消するには至らない。
僕は健太郎の部屋に来ていた。
昨日からエアコンの調子が悪く、使えないらしい……
冷たいもん用意するから待ってろ、と階下へ降りて行った健太郎を見送った後、僕は押し入れの扉に手を掛けていた。
……こんな蒸し暑い部屋に、いる訳ないよね……
ふとそんな事を思い、開けるのを躊躇してしまう。
それというのも、昨日……
『……ねー、聞いてよ茶々丸ぅ』
ダブルデートを早々に切り上げ、帰宅したミルクが寝ている茶々丸を揺り起こした。
『あいつから、匂いがしたんだよねぇ……』
僕が廊下で健太郎とラインをしていた時、茶々丸に健太郎の事を色々喋ったらしい。
『……小太郎』
ラインを終えたタイミングでドアが開き、茶々丸が顔を出す。
『健太郎という男は、猫を飼っているのか?』
『……え…、飼ってないと思うけど…』
『そうか。では健太郎の家に行って確かめてきてはくれないか?』
「……」
茶々丸に、こっそり探して欲しいって言われたけど。
……やっぱり猫を飼ってるかどうか、聞いちゃった方が早いよね……
「小太郎、開けてくれっ、」
そんな事を考えていると、ドアの向こうから健太郎の声がした。
テーブルに麦茶の入ったコップが二つ。
表面のガラスもかなり汗をかき、足元に水溜まりができていた。
「……で、お詫びってこれかよ」
麦茶の近くにある夏休みの課題ノートを見た健太郎は、あからさまな苦笑いを浮かべてみせた。
「うん、早くやっちゃった方が楽だし
解らない所あったら教えるから」
「……っんと、真面目だよな……小太郎は」
そう言いながらも、健太郎は机から課題ノートを取り出す。
相向かいに座り広げたノート。
シャーペンを走らせる音。
時折入る窓からの風に助けられ、湿った腕に張り付いたノートを剥がしながら、暫く無言のまま課題を進めていく。
「……入れてこようか?」
「え……?」
健太郎に声を掛けられて、気が付く
口に付けたコップの中身が、空っぽである事に。
「……あ」
「はは、待ってろ」
僕のコップを手から奪った健太郎は、自分の麦茶を一気に飲み干すと、立ち上がって部屋から出ていった。
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