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掻き乱された心-1

どうやってアパートに帰ったか、わからない 気付いたら靴を引っ掛け踵を履きつぶして、駆け出していた ……健太郎なんか……嫌いだ…… 僕にあんな事……あんな…… 「………」 汗ばんだ肌に残る感触 ……もう、思い出したくない……のに…… 部屋の隅に膝を抱えて踞る きっと、……暑さで……頭がおかしくなっちゃったんだ…… 僕も、健太郎も…… ……だって…… 考えてみたら……男の僕に……なんて……おかしいし そもそも健太郎には、梨華ちゃんがいるし…… 「………」 そう納得させようとしても、キナコの存在をどう処理していいか解らず、再び頭の中がぐしゃぐしゃに掻き乱される ダブルデートで、健太郎の様子がおかしかったのは…… 僕がキナコに似てたから……? ……もしかして キナコと僕を、間違えて…… 膝を抱えた手に力を籠める ……今頃健太郎は 淫らに誘うキナコと…… 何故だかわからない、チクン、と胸の奥が痛む 「……何をボーッとしている」 部屋の隅に佇む僕に気付いたアオが、腕組みをしたまま見下ろしていた いつの間にか日は傾き、オレンジ色に輝く光がカーテンの隙間から差し込んでいる 辺り一面はオレンジ色に染まり、アオの青い髪を別の色に染め上げていた 「……え……」 見上げると、瞳に溜まっていた雫がポロリと落ち、頬に涙の線を残す それに驚いたのか、アオの青い瞳が一瞬揺れた 「……あ、えっと……」 その涙に、僕自身も驚く 濡れた頬を拭いながら、懸命に笑顔を作る 「何でも、ないよ……ちょっと眠かっただけ」 そういった僕に、目線を合わせるようにアオが腰を落とす そして、切れ長の綺麗な瞳が真っ直ぐ僕を捉えると、その色を僕に見せ付けた 「……え……」 その瞳が再び揺れた瞬間、目尻がつり上がる 「……おいっ、」 アオの手が、涙を拭く僕の手首を勢いよく掴み上げる そして、それとは違うアオの手が、ドンッと強く壁をついた 「……貴様」 僕の顔を覗き込む様に、そのつり上がった瞳が近付く 茶々丸やミルクから、からかわれる様に迫られる事はある、けど………それとは全く違う…… 健太郎の時のそれとも違う……凄くトゲトゲしくて……怖い…… アオの端整な顔がすぐそこまで迫り 動けない僕の首筋に、鼻先が近付く ビクッと体が震えてしまう……のに また僕は、この状況から逃れられない…… 「……あ、アオ……?」 恐る恐る口を開けば、アオのガラス玉の様な瞳がギロリと僕を睨む 「……何故貴様から、キナコの匂いがするのだ」

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