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2/hickey mark-1
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忘れるから……
そう言って離れたけど
この体に残る感触は……鎖骨の下に残る赤い痕は……そう簡単には消えてはくれない
あれから数日
健太郎からラインが何件か来た
けど、また心が揺れてしまいそうで……見られない……
茶々丸やミルク、アオは相変わらずで
何事も無かったかのように過ごしている
「……」
もし茶々丸達が猫のままだったら
いずれ、僕は健太郎に押されて……密かに付き合ったんだろうか……なんて考えてしまう
そうなった未来が、もしかしたらあったのかもしれない
……だけど、健太郎には梨華ちゃんがいる
キナコの時の様に、健太郎は僕を一番だとかいいながら、梨華ちゃんとも濃密な関係を続けたんだろうか……
もう訪れない未来を想像して、ふぅ、っと溜め息をつく
この選択が、間違ってるとは思えない
茶々丸達が僕にそう導いてくれたんだと思う
……だけど、割り切れない気持ちがまだ残っていて……苦しい……
「………」
バイト中だというのに、もう何回溜め息をついただろう……
この時間、雇われ店長は帰ったし、客足もない時間帯だから、余計に変な事考えちゃうんだろうな……
ショッピングモールに客を取られ、閑散とした商店街の一角にある小さなパン屋
今この店には、店員の僕一人しかいない
残ったパンを袋詰めしていると、来客を知らせるドアのベルが鳴った
「……いらっしゃいませ」
入ってきたのは、頭に手拭いを巻き、汚れた作業着を着た厳つい感じの人だった
「……あー、汚くて悪い」
肩より少し短い長髪が無造作に一つに縛られ、頬や腕には灰色の塗料がついていた
「……あ、いえ…ごゆっくりどうぞ」
いつもは常連のご老人ばかりだったから、冷静にそう言いつつ内心ドキドキしていた
その人はさっと見て回ると、遠慮したのか適当にふたつ見繕ってレジまで運ぶ
……あ
手の甲、小指の付け根辺りをザクッと抉ったらしく、血がまだ固まらずにじゅくじゅくしている
「あぁ、これ?」
僕の視線に気付いたその人は、口角を少し上げて続けた
「……さっき仕事中にやっちまって……」
「あ、あの……絆創膏……」
「あぁいいって、……舐めときゃ治るんで」
そう言って傷口を唇で覆い、チュッとリップ音を立てて吸った
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