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チュッ…… その音が、あの日の事を容易に思い出させる 健太郎と重ねた……蕩けるような……… 「……あ、」 ハッと我に返り、慌ててエプロンのポケットを弄る 「だ、駄目です……ちゃんと保護しないと、ばい菌が……」 取り出して渡そうとすると、それは以前ミルクが爪を割った時に買った、キティの絆創膏だった 「……あ、…す、すみません……」 こんな厳つい人がするやつじゃない…… 慌てて引っ込めようとすると、太くて無骨な手が伸び、それを受け取る 「……サンキュー」 その人は、目を細め柔らかい表情を僕に向けた バイトが終わりアパートに帰る 玄関を開けた途端、ミルクが走ってお出迎えをしてくれた 「おっかえりー!……ねぇ、見て見て!これ可愛いでしょおー!」 ポニーテールのミルクは、自慢気にネックレスを見せてくる 「店員さんがね、ボクに良くお似合いですよって……あ、あとね、この髪留めなんだけどぉ……」 ……お出迎え……というより、見て見て攻撃…… 「……う、うん、…可愛いね」 苦笑いを浮かべながら靴を脱ぎ、ミルクの横を通り過ぎる 「おい貴様!」 台所入り口で腕組みをして立つアオが、いきなり僕を威嚇する 「今晩の夕食は何だ!」 「…えー、えっとね……」 手にぶら下げていた買い物袋を見たアオが、カッと目を見開く 「……まさか、また魚ではないだろうな……」 「え、そのつもりだけど……」 「貴様、猫には魚だと勝手に決めつけては無いだろうな……」 「……えぇ?!……違うの?」 アオの気迫に圧され怯むと、アオがズイ、と迫る 「いいか、オレ様には和牛ステーキだ!それ以外絶対認めんからな!」 「……ご、ごめんなさい!」 身を縮めて条件反射のように謝ると、アオは分が悪そうに視線を逸らした 「……ま、まぁ、今晩は魚で許してやるが……」 そう言ってスッと僕から離れる アオと入れ替わりに、爽やかな笑顔を浮かべた茶々丸が近付いた 「お帰り、小太郎 バイトで疲れただろう」 茶々丸の優しい言葉に、胸がじーんとする 茶々丸だけだ、僕の気持ちに寄り添ってくれるのは…… 「なので今夜は、外食しようか」 「………」 爽やかな顔してとんでもない事をさらっと言ってのける ……爽やか……うん、爽やかだよ……もう、爽やかキラーだよ…… 頭を抱えた後、再び茶々丸を見る ……って、また服着てないし! 「………」 ……もう、このイケメン猫達が来てから、我が家の家計がヤバい事になってる……

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