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ミルクの方を向いたまま、慌てて浴槽の端へと逃げる ばしゃり、と水面が激しく揺れ、波が立った な、ななな、なんで……?! 「…変なのぉ」 おかしそうにクスクスと笑ったミルクが、浴槽にもう片方の足を入れる その透き通る様な白い肌、細いながら綺麗な体の曲線美に、つい見とれてしまってハッとする 「男の子同士なんだからぁ、全然問題ないよねぇ…?」 湯船に胸の辺りまで沈めたミルクは、首を傾け濡れた長い睫毛の影を落とし、艶っぽくこちらを見る そ、そうだけど……っ! ……どうもミルクが女の子に見えてしまって、……調子狂っちゃうんだよね…… 「………」 その顎下から鎖骨まで、頸椎の出っ張りから肩甲骨の辺りまで……無駄のない、流れるような綺麗な細い線…… 喉仏が無かったら、本当に女の子みたいだ…… 「茶々丸がね、お風呂に一緒に入ると、せつやく?……になるって教えてくれたのぉ……」 すぃ、っとミルクが近付き、肩が触れそうになる 慌てて避けようとすると、ふわっ、と甘い匂いが纏い、鼻を擽った 「………っ、」 ……ミルクのどこからこんな香りがするんだろう…… どうしてこの匂いに包まれると、胸の奥がふにゃんっ、ってなっちゃうんだ…… 「ねぇ、コタロぉー」 ミルクの端整な横顔 そのぷるんとした赤い唇が微かに動く 「……ミルクのせい、だよね……」 僕に視線を合わせないまま、ミルクがポソリと呟く 「ミルクがお金、沢山使っちゃったから……コタロー困ってるんだよね」 「……」 ……さっき話した事、ちゃんと伝わってたんだ…… 何だか分が悪そうにミルクが唇を少し尖らせる 「……あのね、ミルク、今日駅前で………可愛いからモデルやらない?って声掛けられてぇ…… やってくれたらお金あげるよって言われたんだけどぉ……」 ミルクの言葉に、何だか嫌な予感しかしない…… 「コタローの話聞いて……それ引き受けてみようかなぁーって……」 「ミルク、それ絶対駄目だよ!」 ミルクの二の腕を掴み、顔をこちらに向けさせる 「それ危険だから……そんな事しなくていいから……」 驚いたミルクの瞳を真剣に見つめる ……僕のせいだ…… もっと僕がちゃんとしなくちゃいけなかったんだ…… ミルクの瞳が揺れ、そのまま目を伏せる 「うん、わかった」 「……良かった……」 「…でもぉ、やっぱりミルクのせいだから……せめて今日買ったものは全部、返品したいの」 「………」 「だから、電車とご飯代、頂戴?」 「……あ、うん」 ……ん? あ、あれ……? 僕の言葉に、しおらしい態度だったミルクが急変し、満面の笑みで僕に飛び付く 「ありがとぉ、コタロー!」 「……わ、わぁっ」 水しぶきが顔にかかる と同時に後に倒れ、浴槽の縁に背中が当たった

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