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暗い部屋にぼんやりと灯る、外からの明かり
それを頼りに足を踏み入れると、苦しそうに呼吸を繰り返すアオが、敷かれた布団に横たわっていた
……はぁ、はぁ、はぁ、
まるであの時を彷彿とさせる、息づかい………
「………」
濡れタオルをぎゅっと握りしめ、アオに近付く
その傍らに座り、そっとアオの顔を覗き込む
額から落ちてしまったんだろう……濡れタオルが外れて枕元に落ちている
カーテンの隙間から差し込んだ光が、アオの顔の一角を綺麗に映し出す
柔らかそうな細くて青い髪が汗で濡れ、額に張り付き、閉じた瞳の睫毛が長い影を落としている
肌は赤く染まり、熟れたような唇が割り開かれ、熱い吐息が荒く何度も漏れる
……はぁ、はぁ、
苦しそうに大きく揺れる肩
……酷い汗……
布団に落ちた濡れタオルを拾うと、アオの額をそっと拭う
「………」
あの時、アオは僕を拒絶した
あれは僕を酷く憎んでいたからなのか……それとも獣の本能的な警戒心の表れだったのか……
あの日……バスタオルで身体を拭いた後、何とかして布団へと運び、裸のアオに適当に引っ張り出した服を何とか着せ、仰向けに寝かせた時だった
「……貴様……」
薄く開けた瞼の下から、鋭い獣の様な輝きを放つ瞳がギロリ、とこちらを向く
「オレ様の体に…なにを…した……」
宝石の様に輝く青い瞳は、どこまでも冷酷に光り、僕を責める
苦しくて辛い筈なのに、剥き出しの心をそのまま映し出すように、鋭い八重歯を見せ僕に威嚇した
「…貴様が飲ませた、牛乳…のせいで……」
そう言いながら、震える体を無理矢理にでも起こそうとした
「……あ、……ちゃんと、寝てないと……」
「触るなっ!」
伸ばした手を、バチンと弾かれる
「誰が貴様の施しなど……っ!」
ぐらり、とアオの体が揺れる
咄嗟に手を伸ばしその体を支えた
観念したのか、拒絶する気力が残っていなかったのか……アオは大人しくされるがまま、僕に身を預けた
……どんどん熱くなっていく体……
僕の、せい……?
……でも、なんで……こんな……
猫が、人間になんて……
正直、僕も戸惑ってる
こんなあり得ない現実を、すんなりと受け入れられる程、僕の心は純粋じゃない……
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