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「……小太郎?」 僕の反応が薄かったせいか、茶々丸が首を傾げ憂いを帯びた瞳を向ける 「…あ、うん……」 首を小さく縦に振り、貼り付けた笑顔を茶々丸に向ける そうすれば茶々丸は少しだけ口角を上げ、優しく微笑み返し、すぐに冷蔵庫へと視線を移した 取り出したアイスノンにフェイスタオルを巻き付けると、茶々丸は足早に去って行った その背中が見えなくなるまで見送ると、テーブルに両腕を敷き、脱力するように顔を埋めた 僕の首筋にある、ミルクとアオに付けられた赤い痣が、服に隠れずに存在を露わにする そのせいで、バイト中は全然落ち着かなかった…… それに、時折過る……アオの言葉 「………」 溜め息をついて、その痕を隠すように横髪を手櫛で引っ張り下げる ……これ、いつ消えるんだろう…… 恥ずかしくて俯く 店を出る少し前まで、まだ夕映えが残っていたけれど……反対側の空から、全てを覆いつくそうと闇が迫っていた 商店街を抜け駅へと向かっていると、ふとすぐ傍に人の気配を感じた 「……ねぇ君!」 見れば、僕の歩に合わせて男がピタリと横に張り付いている 「きゃりぱみゅに似てるって言われない?」 「……え?」 突然の声掛けに驚き、つい立ち止まってしまった すると、すかさず男が僕の正面へと回り込む 「……あー、やっぱ似てる!か.わ.い.い~もう、マジ最高じゃんっ!」 少し派手めなジャケットを羽織り、ワックスで髪を後ろに流した男が、テンション高めに僕に笑顔を見せる その顔をよく見れば、どことなく健太郎に似ていた 「うん、イケる!……君なら絶対間違いなし!……って事で、モデルやろ?」 半ば強引に話を進め、男が満面の笑みを浮かべる 「引き受けてくれたら、謝礼金払うからさ!」 ……謝礼金? 「……ね?少し撮影するだけ!」 ……これ、昨日ミルクが言ってた……モデルのスカウト…… 男が両手を合わせ、頭も下げ、下手に出る 「少しだけ!」 「……え……」 ここまでされたら……でも…… ……だけど、謝礼金はちょっと魅力的…… それに、求められるのは……嬉しい…… 頭の中に色んな思考が飛び交い、折り曲げた人差し指を唇に当てる 「ね?……お願い!!」 「……うん」 気付けば僕は、押されて小さくそう答えてしまっていた

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