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目線を上げ、健太郎に似た男を見つめながら、左右に小さく首を振る
「俺に任せとけば全っ然!大丈夫だからっ!」
チン……
エレベーターのドアが開き、手を繋いだまま降りると、目の前には事務所らしい部屋があった
社名の入った小さな看板が、
磨りガラスで中が見えないドアの脇に、ひっそりと掲げられている
ぐっと手を強く握られた後、開けたドアの中へと引っ張られる
「……えー!マジで?こんなに?!」
入ってすぐ、甲高い女性の声が聞こえた
「うん、だからまた来てねー」
「来る来る!絶対また来るっ!」
見れば、目を輝かせた女子高生二人が封筒を握りしめ、スタッフと思われる男性に満面の笑顔を向けていた
「……じゃあ、気をつけて帰ってねー」
男が女子高生にひらひらと軽く手を振る
二人の女子高生はキャアキャアと騒ぎながら、僕の横を通り過ぎ外へ出て行った
その瞬間、さらりとなびいた髪からふわりといい香りが鼻を擽る
……怪しい所………そう感じてはいたものの、案外そうでもなさそうな雰囲気に、少しだけホッと胸を撫で下ろす
「………こっち」
クイッ、と手を引かれ中へと進む
パシャパシャッ
沢山の眩いフラッシュと音に驚き、ビクッと肩が跳ねる
足を止めて見れば、胸の辺りと背の低い布のパーテーションの向こうで、何やら撮影をしていた
「……アレってさ、背徳感感じない?」
それに気付いた男が、肩に触れる程身を寄せ、繋いだ手に力を籠める
防水シーツを張った床の上に置かれたショートケーキ
素足を曝した女性が、カメラマンの前でそれをゆっくりと踏み潰す
生クリームが足の指の間からにゅるりと飛び出すと、カメラマンがその足にぐっと近付く
「食べ物を粗末にしちゃダメだよねーっ!」
女性が笑みを漏らしながら、ショートケーキをぐちゃぐちゃに踏みにじる
「………」
「あーいうマニアックな要求するスポンサーって、結構いるんだよねー」
そう呟いた男は、その撮影隊の奥を指差す
「マニアックといえば、あっちの壁際に洗面台があるっしょ?さっきいた女子高生達は、あそこで髪洗ってる所を撮影したっぽいね」
「……あの」
何とも言えない気持ちになり、つい口を開いてしまう
「僕は……」
「……ああ、こっち」
手を引かれ、更に部屋の奥へと向かう
そして天井まで届きそうな程、背の高い立派なパーテーションの奥へと連れて行かれた
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