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すっかり辺りが暗くなったとはいえ、照明の下に立てば僕の格好は目立ち、好奇の目に晒されてしまうからと……
立ち止まったコンビニに程近い、彼の住むアパートに誘われた
裸足であのビルを飛び出したせいで、このまま上がる訳にはいかず……彼がお湯を張った洗面器とタオルを用意してくれた
「……足、貸せ」
玄関の上がりに腰をかけると、彼が叩きにしゃがみ、僕の足を取って洗面器に誘導する
ぱしゃん……
足の裏、甲から足首まで丁寧に、両手で包んですすいでくれる……
「………っ、」
その彼の指が、足の指の間に入り込む
何ともいえない感覚が襲い、慌てて足を引っ込めようとする……けど、それを許さず彼は強く引き戻す
「……あ、あの」
やっぱり……ヘンだ……
ただ足を触られてるだけなのに……
恥ずかしさとくすぐったさと気持ち良さが入り乱れ
心臓が、胸の中で悪戯に暴れ回ってしまう……
「……じ、自分で、できます……から」
「いいから黙ってろ」
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、僕の足裏に怪我をしていないかチェックしながら優しく洗い流すと、タオルで拭いてくれた
その仕草や真剣な目つき……
まるで現場仕事をしている表情に見えて……決して見る事はないだろう、彼の側面を垣間見た気がして……何だか嬉しい……
「部屋汚ぇけど、上がってろ」
「……え」
廊下に立つ僕に、突っ掛けたままの薄汚れた紐靴の爪先をトントンとしながらそう言い放つ
それに驚いて小さな声を上げれば、彼は踵を靴に押し込み、チラリと横目で僕を見た
そして襟足を掻きながら、背を向ける
「ちょい、出掛けてくる」
パタン、と閉まるドア
その向こう側に、彼の広い背中が消えていく……
言うほど汚くはない……けど、男の独り暮らしという雰囲気のワンルーム
彼の匂いが微かにし、胸の奥が柔らかく締め付けられる
ガラスのローテーブルの上にある、エアコンのリモコンを見つけ、電源を入れる
キッチンとの境にある二人掛けのソファに深く座り、足裏を床から離し膝を折り畳んだ
「………」
どうして……僕なんかを……
簡単に、家に上げてしまえるんだろう……
……しかも、留守を預けるなんて……
そっと、足の甲に触れる
『いいから黙ってろ』
彼の声が頭の中で響く
「……はい」
膝に顎を寄せ、小さく答えると
彼が触れた記憶を辿り、そっと甲を撫でた
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