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そもそも……なんであんな簡単について行ってしまったんだろう…… ミルクには危険だからって、言っておいて…… 『触るなっ!』 拒絶したアオの声が蘇る と同時に、心がザクッと抉られる 「………」 ……アオが、僕を嫌っているのは 今に始まった事じゃ、ないのに…… アオはただ、自分のプライドを守っただけ 勝手に……僕が勝手に介抱して ……勝手に、傷付いた……だけ…… 蛇口を締め、シャワーヘッドを壁にかけると、両手で体を抱く 濡れた前髪の毛先や顎先から、ぽたぽたと雫が垂れ落ちる たったそれだけで、自らを危険な目に晒して…… ……もし、助けて貰えなかったら 今頃、僕は…… 「……あ、ありがとう、ございました」 脱いだチアガールのユニフォームを胸に抱え、ソファに座る彼の傍に立つ しっとりと濡れた肌から、エアコンの乾いた空気がその過度な潤いと熱を奪う 「……何か、飲むか?」 シャワーを浴びている間に着替えたのだろう……黒いシンプルなTシャツに、遠目ではわからない柄の入ったハーフパンツを履いていた 「……え、あ……」 「といっても、麦茶しかねぇけど」 口端を少しだけ上げ、チラリと僕を見る その流し目に、僕はドキンッと胸が高鳴った 彼がソファから立ち上がる その腕には、仕事でついたのだろう白い塗料 ……そして手の甲には、キティの絆創膏 汗だって、いっぱいかいて……本当は今すぐにでも、シャワーを浴びたい筈なのに…… キッチンスペースにある、小さな冷蔵庫前にしゃがみ込む彼の後ろ姿を見て、何だか落ち着かない 「……適当に座ってろ」 「は、はい……」 麦茶を運んでくれた彼に促され、彼が座っていたソファの斜向かいに正座をする 「あんま知らねぇ人ん家に長居もしたくねぇだろうし、時間も遅ぇから…… それ飲んで落ち着いたら、家まで送ってってやる」 ソファの前に腰を下ろし胡座をかいた彼は、麦茶をゴクゴクと飲んだ 上下に動く、浮き出た喉仏 コップを持つ、しなやかでしっかりと筋肉のついた腕 ……どうしよう……また、ドキドキしてきた テーブルに置かれた麦茶を手にする 妙に頬だけが熱くなり、目を伏せ、コップの縁に唇を当てた 「……あ、あの」 暴れる胸を抑え、そっと尋ねてみる 「どうして僕があのビルにいる事、わかったんですか?」 ……どうして僕を、助けようとしてくれたの……?

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