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駅までの夜道を並んで歩く 夜も深まったと言うのに、駅裏の大通りのせいか人の往来が目立つ 昼間とは違う装いの街……ぽつぽつと客引きやホストらしい装いの人が現れ、道行く人に声をかけている 路地を覗けば、妖しげな光を放った店が何軒か建ち並んでいる 駅まで直ぐだからと断った僕に、危ないからといった彼の言葉の意味を理解した 彼が隣にいるというだけで、なんて心強いんだろう…… 「……やっぱ聞いていいか?」 アパートを出てすぐ、彼が突然伺うように言った 外灯が所々しかない、細くて暗い住宅街 暗闇にぼんやりと浮かびあがる彼の顔は、どんな表情をしているのかよくわからない 「え……はい……」 「……なんで、付いてっちまったんだ?」 別に責めてるような声じゃない どこか優しさが滲みながらも、憂いを帯びたように響く 「………えっと、」 横並びになり、大通りへと歩き出す 「……僕、いま同居してる人がいるんですけど…… その人に、嫌われちゃってて……」 彼の姿が視界から外れたせいか それとも周りがよく見えないからか………一人暗闇に向かって話しているようで、何だか話しやすい 「僕のせいで、その……大変な事になって…… 熱が出て辛そうで、何とか楽になって欲しくて………それで、介抱しようとしたんだけど、近付くなって……拒絶されて……」 あの時の情景も蘇り、どんどん口から感情が溢れて止まらない…… 「それまでも……怒られたり拒絶されたり……僕が何かしてもしなくても ……プライドを、傷つけてしまうみたいで…… それで……凄く、落ち込んでたんです……」 外灯の下でできた影が、歩く度に長く伸び、やがて闇の中へと溶け込んでいく 「……そんな時、突然話し掛けられて……」 「んで、付いてったって訳か」 突然の彼の言葉にハッとし、顔を向けた もう闇に目が慣れたせいか、彼の顔が先程よりもよく見える 責める訳でも優しい訳でもない、無の瞳がそこに浮かんでいた 「……はい」 小さく答えながら、こくん、と頷く そしてそのまま目を伏せ、闇に溶け込む細い道をぼんやりと目に移す 「なぁ……んな事して、そいつは喜ぶんか?」 「……え」 その言葉に、胸をぐさりと突き刺される 隣で軽く息を吐いた彼が、こちらに視線を向けたのを感じた 「俺はそいつの事を良く知らねぇけど、あんたを嫌いで遠ざけた訳じゃねぇと思うぜ ……寧ろ、あんたの事を、好きだから……じゃねぇのかな?」

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