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ホームの方向へと振り返れば、キャアキャアと騒ぐ女性達がそこにかたまっていた
……え……
その女性達より、頭ひとつ分程抜きん出た背丈、横分けされた髪からピンと立つ、茶色の獣耳……
……ち、茶々丸……?
その心の声が届いたのか、茶々丸がこちらに顔を向ける
「……小太郎!」
僕に気付いた茶々丸は獣耳をピクリと動かし、女性を掻き分けこちらへと向かってきた
襟口が広くあいた黒のカットソー
スラリとした長い足に似合う、ダメージジーンズ
腰に巻かれた赤と紺のチェックシャツが、動く度に揺れる
いつもは僕のダサい服を適当に着る茶々丸だけど
その姿は、まるでモデルのようで……
男の僕から見ても、見とれてしまう程カッコイイ
「帰りが遅いから、心配で迎えにきた」
僕を咎める事なく、大きく手を広げ、正面から僕を包み込む
瞬間、茶々丸を取り囲んでいた女性達が、キャー!と騒ぐ
「………」
背中に回された腕は、力強くギュッと僕を抱き締め………それだけ心配かけてしまったんだと、胸が苦しくなる……
鼻の奥がツンとし、すんっ、と鼻をすする
胸いっぱいに広がる、茶々丸の匂い……優しくて暖かな腕の中……
背中に当てられていた手が離れ、僕の後頭部を優しく撫でる
「……小太郎……」
耳元でそう囁いた後、茶々丸がそっと
体を離す
そして真剣な瞳のまま、見上げた僕の顔をじっと見つめた
「……無事で良かった」
口角を緩く上げ爽やかな笑顔を僕に向けると、僕の髪に指を差し入れ、優しく頭を撫でるように梳いた
……心配、かけちゃった……
「ごめん、なさい……」
言い切らないうちに、瞼の縁に溜まった涙が一筋零れる
そんな僕の横髪を茶々丸の長い指が優しく梳き、そのまま頬を包む
そして、涙で濡れた下瞼を親指でそっと拭った
「家に、帰ろうか」
茶々丸の端整な顔が近付き、僕の顔をそっと覗き込む
間近で瞳が合えば、茶々丸のセクシーで肉厚な唇が綺麗な弧を描いた
「………」
茶々丸に手を引かれてすぐ、改札口の方へと振り返る
………しかしそにはもう、彼の姿はなかった
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