66 / 81
3/meet again-1
-7-
「……ありがとうございました」
カラン、とドアに付いたベルが鳴り、パン袋を下げたお客さんが出て行く。
それを見送った後壁に掛かった時計を見れば、閉店時間はとうに過ぎていた。
……今日も、来なかったなぁ……
ふう、と溜め息をつき、店仕舞いにとりかかる。
ドアノブに掛かったopenの看板をひっくり返し、レジを締め、余った商品をパンケースに詰める。
……もう、ここには来ないのかな……
僕を助けてくれた防水工の彼は、あれから一度もここへは来ていない。
そもそも常連さんではないし、一度しか来たことがないし……
……それに、お互い名前も知らない。
「………」
僕の後悔している事のひとつだ。
もう一つは……
改札口の前で、言いかけた言葉を飲み込んでしまった事。
何であの時、ちゃんと聞かずに別れてしまったんだろう……
思い出す度に、後悔の溜め息が漏れ出てしまう……
全て詰め終わり、パンケースを店の奥へと運ぶ。
そして洗い場に残ったトレイとトングを洗い、台拭きを濯ぎ、ディスプレイ棚とレジカウンターを拭く。
……あのビルの向かいが現場だ、って言ってたけど……
まだ、あそこで仕事してるのかな……
あの日以来、気付けば彼の事ばかり考えてしまっている。
店を出て駅へと向かう途中、スマホが震えた。
ポケットから取り出し画面を見る。
……梨華ちゃん……?
思ってもみない人からのラインに驚き、すぐに開く。
《今、necoco.見たら、ミルクちゃんが載っててびっくりしちゃった!》
付き合っていた頃のやり取りとを分けるように、今日の日付の後に梨華からのメッセージが表示されている。
「………」
過去のやり取りの言葉が視界に入ってから、ふと気付く。
見たら辛くなると思って……ずっと開けられなかったのに……
一覧に戻り、健太郎のアイコンに目を移す。
そこに表示されている、未読マーク。
……あれから、僕は……
まだ一度も健太郎からのメッセージを開いていない。
ともだちにシェアしよう!