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3/meet again-1

-7- 「……ありがとうございました」 カラン、とドアに付いたベルが鳴り、パン袋を下げたお客さんが出て行く。 それを見送った後壁に掛かった時計を見れば、閉店時間はとうに過ぎていた。 ……今日も、来なかったなぁ…… ふう、と溜め息をつき、店仕舞いにとりかかる。 ドアノブに掛かったopenの看板をひっくり返し、レジを締め、余った商品をパンケースに詰める。 ……もう、ここには来ないのかな…… 僕を助けてくれた防水工の彼は、あれから一度もここへは来ていない。 そもそも常連さんではないし、一度しか来たことがないし…… ……それに、お互い名前も知らない。 「………」 僕の後悔している事のひとつだ。 もう一つは…… 改札口の前で、言いかけた言葉を飲み込んでしまった事。 何であの時、ちゃんと聞かずに別れてしまったんだろう…… 思い出す度に、後悔の溜め息が漏れ出てしまう…… 全て詰め終わり、パンケースを店の奥へと運ぶ。 そして洗い場に残ったトレイとトングを洗い、台拭きを濯ぎ、ディスプレイ棚とレジカウンターを拭く。 ……あのビルの向かいが現場だ、って言ってたけど…… まだ、あそこで仕事してるのかな…… あの日以来、気付けば彼の事ばかり考えてしまっている。 店を出て駅へと向かう途中、スマホが震えた。 ポケットから取り出し画面を見る。 ……梨華ちゃん……? 思ってもみない人からのラインに驚き、すぐに開く。 《今、necoco.見たら、ミルクちゃんが載っててびっくりしちゃった!》 付き合っていた頃のやり取りとを分けるように、今日の日付の後に梨華からのメッセージが表示されている。 「………」 過去のやり取りの言葉が視界に入ってから、ふと気付く。 見たら辛くなると思って……ずっと開けられなかったのに…… 一覧に戻り、健太郎のアイコンに目を移す。 そこに表示されている、未読マーク。 ……あれから、僕は…… まだ一度も健太郎からのメッセージを開いていない。

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