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……よかったのかな……
茶々丸達に内緒で、健太郎と会ったりしちゃって……
「………」
モール内のレストラン街にある定食屋。
そこそこ混んでいて、店員に案内されたのは、店の奥にある壁際の小さな席。
テーブルの向かいに座るのは、少し穏やかな顔をした健太郎。
茶々丸には、寄り道してから帰るとだけ伝え、バイト終わりで健太郎と落ち合ったのだ。
「……は、話って」
「何がいい?」
意を決して発した僕の声を遮り、健太郎がメニュー表を寄越す。
「腹減ったから、なんか食おうぜ」
「………」
相変わらず……強引……
左手を出し、メニュー表を受け取る。
……だけど、そういう所が健太郎らしくて……
僕には心地良くて……
僕の胸が、勝手に激しく動いてしまう。
……勝手に……期待してしまう……
俯いて、視界から健太郎を消す。
もうすっかり消えてしまった、鎖骨の下に……そっと指を添えた。
……もう、終わったのに……
健太郎は、梨華ちゃんともキナコとも関係を持ってて……
それを、茶々丸達が………
「決まった?」
「………あ、えっと……」
慌ててメニュー表をパタパタと捲る。
「相変わらずだな」
そんな僕の行動を見て、健太郎がクスッと笑った。
「俺、サバの味噌煮定食にするわ」
「……え、あ……うん。じゃあ僕も……」
「はは、そういう所もな」
健太郎の笑顔……
なんか、久し振りに見た気がする……
……それだけで……なんだかホッとして
つられて僕も少しだけ口端を上げた。
前と……変わらない。
あんな事があったなんて……嘘みたいに……
それはそれで……少し淋しい、なんて
忘れてって言ったのは、僕の方なのに……
「珍しいね。健太郎が魚料理頼むなんて」
「……そうか?」
少しだけ、健太郎が目を見開く。
もしかして……健太郎も猫には魚だと思って、キナコに毎日魚料理出してたりして……
そんな事を思ったら、可笑しくなってしまった。
「なに笑ってんだよ」
少しふて腐れ、でも照れたように健太郎が笑う。
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