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「……キナコなら、戻ったんだ」 寂しそうな……顔。 「戻った……って……」 「……猫に、だよ」 「えっ、……!」 驚きすぎて……大きな声が出てしまう。 その直ぐ後、ウエイトレスがテーブルに近付いたのに気付き、目を見開いたまま口元に手を当てた。 ……戻った……って…… どうして……どうやって……?! 「お待たせしました!」 鯖の味噌煮定食。 食欲をそそる匂いのするそれが、大きな盆に乗ったまま、健太郎と僕の前に置かれる。 と、テーブルはそれだけで隙間がない程窮屈になってしまう。 テーブルの端にある、円柱形の透明な伝票立てに丸めた伝票を差し込むと、ウエイトレスがサッと去って行く。 「……まぁ、食おうぜ」 「………」 それを見送る僕に、健太郎が少しだけ口端を上げた表情をして見せる。 ……健太郎…… もしかして……それで、魚料理を……? 割り箸を取り、鯖の味噌煮をつついて崩す。割れたそれに味噌だれを絡め、箸で摘まんで持ち上げる。 そんな健太郎をじっと見ていると、それに気付いたのか健太郎が僕をチラッと見た。 「……何だよ」 「は、話って……もしかして……」 口元に持っていった箸を、器の方に戻す。 そして少しだけ表情を曇らせ、健太郎が僕から視線を外した。 「……まぁ、な」 「………」 「お前らが来たあの日から、キナコの様子が少しおかしかったんだよ……」 健太郎が遠い目をしながら、ぽつぽつと話し出す。 「でもそれは、もうすぐ発情期が終わるせいだとばっかり思い込んでてさ。……キナコの方も、何も言わねーし」 「………」 「何で猫に戻ったのかは、正直解んねー。てか、そもそも何で猫が人間になったのかってのも解んねーけど……」 そう言って摘まんだ鯖の味噌煮を戻し、箸を器の端に静かに置く。 一口も付けられなかったそれが、寂しそうに味噌だれに浸かった。

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