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……様子がおかしかったんだよ……
頭の中が、じりじりと痺れる。
発情期の終わり……?
……でも……アオはもう、発情期は終わっている。
それでも変わらずにいるのだから……発情期は関係ないのかもしれない……
……それにしても……
「………」
力無く肩を落とし、溜め息をつく健太郎の姿に……胸が苦しくなる。
「……健太郎……」
思わず声を掛ける。
それに反応し、僕に視線を合わせた健太郎が小さく目を見開く。
そして直ぐに目を細め、口角を緩やかに上げた。
「……お前、キナコに似てんな」
憂いを帯びながらも、愛しそうに僕を見つめる。
「……え……」
「わり。……深い意味はねーから」
「………」
視線を直ぐに逸らし、勢いよく箸を掴んで再び鯖の味噌煮を摘まみ上げる。
「って、んな事もねーか」
「………」
健太郎はまた、摘まんだままのそれを口元で止める。
「俺さ……キナコを初めて見た時、小太郎に似てんなって思ったんだ。
……発情して乱れてるキナコを前に……お前に誘われてるみてーで……我慢出来くてさ……」
箸から、味噌だれが垂れ落ちる。
「キナコも、自分が誰かの代わりだっての、最初から気付いてたっぽくて。……それでもいいからって言われたんだよ。
……けど、体を重ねていくうちに……情っつーの?……なんかそんなのが湧いてきて……」
「………」
「結局スゲー半端なんだよ。
キナコを見て、お前に重ね合わせてたのに……今度はお前をキナコに……ってさ。
……ヤな奴だよな、俺」
苦笑いして見せ、箸で摘まんだままの鯖の味噌煮を口に含む。
そして箸を置き、垂れ落ちて汚れたテーブルの端を、備え付けのペーパーで拭き取る。
……中途半端なのは……僕もだよ……
全ては丸く収まった事、なんて……わかってる。
……だけどまだ、健太郎への気持ちは残っていて……
枯れかけた花に水をやるように
こうして会ってしまえば、どんどん気持ちは膨らんでいってしまって……
「……そんな事、ないよ」
そんな簡単に、気持ちとか、コントロールしたり割り切れたりするものじゃ……ないよ……
「健太郎が優しいの……僕は解ってるよ。
……それだけキナコの事を、想ってるって事も……」
膝の上に置いたままの手を、ぎゅっと握る。
「……健太郎のそういう想いは、きっとキナコにちゃんと届いてるから……」
「………」
「大丈夫だよ」
口角を上げて、健太郎に笑ってみせる。
「………」
真っ直ぐ僕に向けられた瞳。
その瞳が、やがて小さく揺れる。
「はは、やっぱ小太郎だな」
それを隠すかのように、健太郎も口角を上げてみせる。
「……最初から、半端な事なんてすんじゃなかったな。……なんて」
「………!」
何処か、含んだような言葉。
細めたその瞳から逃れる様に、僕は健太郎から視線を逸らす。
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