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……どうしよう……
思わせぶりな事を言うのは、健太郎らしいって解ってる……
……なのに、この心臓は……勝手に胸の中で暴れ回ってしまって……
傍らに置いた、トートバッグ。
中々定まらずにいた視線が、そこに落ち着く。
「………」
……僕だって……
あの後、健太郎との未来を想像しなかった訳じゃない……
後悔しそうになりながらも……これで良かったんだって……言い聞かせてきた。
最初から、あんな事なんて無ければ……なんて思った事もある。
そしたら、友達のまま……傷付かずに済んだのにって……
……だけど……あんな事が無ければ………
僕は、自分の本当の気持ちに気付かなかった……
「美味いぞ、これ。小太郎も早く食えって」
「……え、あっ……、うん……」
健太郎に催促されトートバッグから視線を外し、目を伏せたまま割り箸を手にする。
そして二つに割り、健太郎の真似をする様に鯖の味噌煮に箸を入れて解す。
その間に健太郎は、ご飯茶碗を持ち勢いよく口の中に掻き込んでいた。
「……なぁ」
店を出てショッピングモール内を並んで歩く。
夏休みだからなのか………夜なのに人が多く賑わいを見せている。
これだけの人がいるのだから、クラスメイトの一人や二人、気付いてもおかしくはないだろう……
「今度、一緒に映画でも観ようぜ」
通路中央にある色々な展示の中に、映画チケット半券割引の案内看板があった。
健太郎がそれに目をやっている。
「……え」
それは、友達として……?
さり気なく吐かれた台詞に、一々反応し、動揺してしまう自分が段々情けなくなってくる。
「り、梨華ちゃんと一緒に行ったら?」
そう答えると、健太郎がこちらに顔を向ける。
その瞳は、大きく見開かれていた。
「……そう、か」
僕に返した感じでもなく……まるで独り言を呟くかの様に、健太郎は小さく口を動かした。
その口をぐっと引き結び、分が悪そうに視線が外される。
「梨華とは、……別れた」
「…え……」
「………」
横を向き、歩く速度を速めてしまう……
……それから暫く、会話は無かった。
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