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モールを出て、駅へと向かう。
その途中、駅前の路上に何やら人集りができており、ざわざわとざわめきあっていた。
それに気を取られていると、不意に健太郎が肩に触れる程近寄った。
そして触れる、手と手……
「……!」
その指が、絡まる。
驚いて見上げれば、手をグイッと強く引っ張られる。
「あぶねーだろ」
僕のすぐ脇を、列を成した人が擦れ違う。
お喋りに夢中で、僕の存在に気付かなかったようだ……
「……あ、ありがと」
「………」
そう言って、健太郎から手を離そうとする。
……だけど、その手を、健太郎は……
「………」
「………」
早く……手、離さなくちゃ……
そう思ってるのに、中々強く引っ込める事ができない。
健太郎も、僕の手を離すつもりはないらしい……
タイミングを失ったまま……指が更に絡まる。
そして合わせた掌が熱を帯び、じわじわと汗ばんでいく。
……まるであの日、重ねた肌みたいに……
「……おい」
その時突然……
繋がれた手が、後方に持ち上がる。
驚いて健太郎を見れば、その二の腕を誰かに掴まれていた。
「何してやがんだっ!」
低く、少し乱暴な声。
無造作に後ろで束ねた、肩まで長い髪。
切れ長で鋭いオーラを放つ瞳。
……え……
ほんの一瞬。
その姿を一目見ただけで……
僕の全身の血液が、沸騰する。
もう、辺りはすっかり暗いのにも関わらず
彼だけが……キラキラと、眩しい程に輝いて……
……どう、して……
「手を離せ……!」
振り解かれた手。
その手を、防水工の彼に掴まれる。
そして彼の背後へと誘導された。
「……はぁ?!」
突然の出来事に、健太郎が怒声を上げ威嚇する。
「つーか、何だよオッサン!」
何が起こったのか……解らない
だけど、何か誤解されてるのは確かだ……
何事かと、行き交う人達が足を止める。
先程までざわめいていた人達が、気付けば此方を見ていた。
「……行くぞ、小太郎!」
構わず健太郎が近寄り、僕に手を差し伸べてくる。
「……てめぇっ、……まだ懲りてねぇようだな」
その手首を、逞しい防水工の彼の手が掴み捻り上げる。
「事務所ぶっ潰すだけじゃあ、物足りねぇみてぇだな」
その台詞に、僕はやっと状況を理解した。
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