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「……あ、あのっ!」
健太郎の手首を掴む、彼の腕に手を伸ばした。
「ご……誤解です……」
そう言って見上げれば、彼が僕の方へと顔を向ける。
「僕の、友達……です……」
……ざわ、ざわ、
気付けば、周りに人集りが出来ていた。
興味を持った視線が、こちらへと注がれる。
僕の言葉に、彼の目の色が変わった。
あれだけ尖っていた瞳が、一瞬で緩む。
「……そうか」
彼が、健太郎の手を離す。
「悪かったな、兄ちゃん」
そう言って健太郎の肩に手を乗せると、ポンポンと軽く二度叩いた。
「……ねぇ虎ァ、何やってんの?!」
人集りの奥から、ざわめきを切り裂く様に、よく通った女性の声が聞こえる。
「早く片付けてよォ!」
「……わぁった!今行くから待ってろ!」
そう叫んだ後、僕の方をチラリと見る。
「………」
ドキン……
先程の瞳とは少し違う……
……だけど……
視線が合ったのは、ほんの一瞬。
直ぐに逸らされ、顔を声のあった方へと向けてしまう。
「………」
引き止めなくちゃ……
……今、見失ったら……もう……
全身が、心臓になったかのように……ドクドクと激しく脈動する。
震えてしまう手に力を籠め、ギュッと握った。
「あ、あのっ、!」
去って行く背中にそう叫ぶ。
だけど、この喧騒の中では届いていないらしい……
そう思ったら、人混みに消えていく背中を、追い掛けていた。
あまりに緊張し過ぎて、手足が強張ってしまい足が縺れそうになる。
引き止めた後、どうするかとか
そんなの考えられなくて……
ただ、早く彼に追い付こうと必死に走った。
「小太郎!」
背後から、健太郎の呼び止める声が聞こえた。
と同時に、二の腕を掴まれる。
「……待てって」
「………っ、」
「どこ行くんだよ」
……ざわざわ
振り返って健太郎を見上げる。
その表情は、瞳は、……真剣で……
掴まれた所が……痛い……
「お前、まさか……」
「…………」
小さく、こくんと頷く。
僕を掴む手が緩む。
そして、健太郎の瞳が揺れる。
「……ごめん、健太郎」
目を逸らさず、僕は健太郎を見つめる。
そんな僕達と去っていく彼の間を、道行く人達が阻んだ。
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