77 / 81

12

「……あ、あのっ!」 健太郎の手首を掴む、彼の腕に手を伸ばした。 「ご……誤解です……」 そう言って見上げれば、彼が僕の方へと顔を向ける。 「僕の、友達……です……」 ……ざわ、ざわ、 気付けば、周りに人集りが出来ていた。 興味を持った視線が、こちらへと注がれる。 僕の言葉に、彼の目の色が変わった。 あれだけ尖っていた瞳が、一瞬で緩む。 「……そうか」 彼が、健太郎の手を離す。 「悪かったな、兄ちゃん」 そう言って健太郎の肩に手を乗せると、ポンポンと軽く二度叩いた。 「……ねぇ虎ァ、何やってんの?!」 人集りの奥から、ざわめきを切り裂く様に、よく通った女性の声が聞こえる。 「早く片付けてよォ!」 「……わぁった!今行くから待ってろ!」 そう叫んだ後、僕の方をチラリと見る。 「………」 ドキン…… 先程の瞳とは少し違う…… ……だけど…… 視線が合ったのは、ほんの一瞬。 直ぐに逸らされ、顔を声のあった方へと向けてしまう。 「………」 引き止めなくちゃ…… ……今、見失ったら……もう…… 全身が、心臓になったかのように……ドクドクと激しく脈動する。 震えてしまう手に力を籠め、ギュッと握った。 「あ、あのっ、!」 去って行く背中にそう叫ぶ。 だけど、この喧騒の中では届いていないらしい…… そう思ったら、人混みに消えていく背中を、追い掛けていた。 あまりに緊張し過ぎて、手足が強張ってしまい足が縺れそうになる。 引き止めた後、どうするかとか そんなの考えられなくて…… ただ、早く彼に追い付こうと必死に走った。 「小太郎!」 背後から、健太郎の呼び止める声が聞こえた。 と同時に、二の腕を掴まれる。 「……待てって」 「………っ、」 「どこ行くんだよ」 ……ざわざわ 振り返って健太郎を見上げる。 その表情は、瞳は、……真剣で…… 掴まれた所が……痛い…… 「お前、まさか……」 「…………」 小さく、こくんと頷く。 僕を掴む手が緩む。 そして、健太郎の瞳が揺れる。 「……ごめん、健太郎」 目を逸らさず、僕は健太郎を見つめる。 そんな僕達と去っていく彼の間を、道行く人達が阻んだ。

ともだちにシェアしよう!