23 / 49
#19 迷子
中学一年の頃の話。
入学祝いも兼ねて、父が携帯を買ってくれた。
当時はまだスマホよりガラケーの方が普及率が高く、俺は一目惚れした黒のスライドケータイを買ってもらい目をキラキラさせていた。
直感的に操作を覚えつつ、『まだ使いこなせてないな~』なんて思っていたときだ。
迷子になったのだ。
家で。
……うん。まぁ、どういうこと?となるのは仕方ない。百人に言えば百人から『家で?』と聞き返されるだろう。
詳しい話を聞けば分かってくれるはず。例によって、霊の仕業なのだ。
☆
その日は休日だったが朝から父が出かけており、家には特に予定のない俺と兄の二人だけだった。
テレビゲームで遊んだり、飽きたら適当にテレビを見たり、またそれに飽きたら漫画を読んだりと悠々自適に過ごしていたのだが。
「ふあぁ」
「うわ、アホ面」
「欠伸したんだから仕方ねーだろ」
昼間の14時頃。長閑すぎる家の空気に眠気はピークを迎え、俺は昼寝をすることにした。
ソファには兄が既に寝転がっていたので、仕方なく床で寝ようと思う。
が、その前に部屋から持ってきた漫画を戻してしまおうと眠気を我慢し立ち上がった。
「お、っとっと」
立ち上がった弾みにポケットから滑り落ちた携帯を、慌ててキャッチする。
どうせ寝るし居間のローテーブルに置いてしまおうかとも思ったが、いい位置でキャッチできたので何となくそのままスッとポケットに仕舞い直した。
これが、後に不幸中の "大" 幸いになるとは思いもよらず。
・
・
・
ガチャ。
漫画を本棚に戻して、部屋から出る。
立ち歩くと少し眠気が覚めてしまい、何だか勿体ないような気持ちになった。せっかく寝る気満々だったのに。戻すのは後でも良かったかな。
まぁ寝転がってたらすぐに眠くなるだろう、なんて思いながらトッ、トッ、と階段を降り、リビングまで戻ってくる。
ドアノブに手を掛けたとき、廊下の奥からカタリと物音がした。音に釣られて何の気なしにそちらを見る。
脱衣所から、長い髪を垂らした俯き気味な頭が出てきた。
ゆっくり、ゆっくりと、重い足が床を摺るように歩く。
ズトッ、ズトッ、ズトッ、と。
金縛りにでも合ったかのようにずっとそちらを見ていたことにハッと気が付いて、俺は顔の向きをリビングの方へ戻した。
(――大丈夫。 "おかあさん" ……お兄の、お母さんだ)
姿を見せても見せなくても、家の中には必ずいる、と兄が言っていた。扉の向こうにはその兄がいるし、何も怖がることはない。
俺は冷静を装ってガチャリと扉を開けた。
すると。
「……え?」
扉の向こうにあったのは、リビングではなく風呂場だった。
混乱して、咄嗟に振り返る。
すると俺がいたのは脱衣所で、
入口には、 "おかあさん" の後ろ姿があった。
俺の気配に気付いたように、ピタリとその足が止まる。
サーッと全身から血の気が引いていくのが分かった。
どうしよう、どうしたらいい?
頼る者などいないのに、恐怖と混乱で身体が固まってしまった。
バクバクと心臓が鳴る。うるさい、うるさい。鳴り止め、鳴り止んで、いや、そんなことよりどうすれば、
と。
"おかあさん" の首が、ゆっくり回った。
こちらを、振り向こうとしている。
咄嗟の行動だった。自棄だったのかもしれない。
俺は、風呂場の中へ飛び入った。
ピシャリと遮断するように戸を閉める。
しかし、狭い風呂場に逃げ場はない。出入口も今しがた閉めた戸のみ。
あちらから見てもここに隠れたのは一目瞭然で、戸に手をかけたままじわじわと背中に嫌な汗が伝うのが分かった。
と、そこでふと違和感を覚える。
手をかけていた戸に、だ。
「……あれ?」
風呂場の四角く白いドアノブに手をかけていたはずが、俺が掴んでいたのは茶色い木のドアノブだった。
慌ててまた振り返る。
すると、そこにあったのは見慣れた自室の風景だった。
今度は、"おかあさん" の姿はない。
恐る恐る、自室の扉を開ける。
覗いてみれば、そこには普段通り二階の廊下があった。
安堵とも困惑ともつかぬ妙な気持ちで脱力して、ギシリと廊下に踏み入る。
何が起きているのか、全く分からない。
分からないが、とにかく兄のいるリビングに戻りたい。
そう思いながら歩き始めて、また違和感。
「っ!」
違和感の正体は、兄の部屋だった。
俺の部屋の隣にあるはずの兄の部屋。そこが、真っ白な壁になっていたのだ。
周囲をぐるりと見渡す。二階には俺と兄の部屋の他に物置場と化している部屋がもうひとつあるのだが、見渡しても部屋の扉はその部屋と俺の部屋の二つしかない。
家に、何かが起きている。
改めて確信して、俺は早足で階段を駆け下りた。
すると今度は、あからさまな異変があった。
「!?」
一階に繋がっているはずの階段が、ある程度降りたところで行き止まりになっていたのだ。
まるで迷路の外れ道みたいに、壁が出来ている。
数々の異変に、自分の家にいるはずなのにまるで知らない家に来たような錯覚に陥った。
ふと、幼少期の記憶が甦る。
母と暮らしていた小さなアパートは居間に寝床に風呂にトイレくらいしか部屋がなかったので、二階建てで一軒家の柳家に越してきたときは、どこに何があるのかさっぱり分からなかった。
トイレに行こうとして母と父の寝室を開けたり、風呂に入ろうとしてトイレに行ったり。
そういえば、そんなときによく『ここじゃなくてあっち』と手を引いてくれたのは兄だったかもしれない。
……兄。
そうだ、兄。リビングに戻れなくても、接触手段があるじゃないか。
俺はそこでようやくハッと気が付いて、ポケットから携帯を取り出した。
まだ買ってもらって数日しか経っていない携帯。
慣れない手つきでぽちぽちとひとつずつ確認するように操作して、俺は電話をかけた。
プルルルルル、プルルルルル、と、機械的な音が耳元で鳴る。
三コール目で、プツリと機械音は途切れた。
『何?どした?』
家にいるにも関わらず電話をかけてきた俺を不思議がるような、兄の声が聞こえた。
全身が脱力してその場にへたり込みそうになる。
「お、お兄~!何か、なんか全然わけ分かんないんだけど、家がおかしくなっちゃって……」
『はぁ?』
「いや、マジで!何かリビングのドアが風呂場に繋がってたりさ、と思ったら俺の部屋だったりさ、二階にお兄の部屋がなかったりさ、階段が途中で終わってたりしててさ」
『何だそれ。マジで?』
「マジだよ!冗談じゃなくて!」
『あー……ちょっと待て』
そこで兄の声が切れて、何やらゴソゴソガチャガチャと物音が聞こえてきた。
『……お前今どこ?』
「二階の階段!謎に壁できてて先進めない……」
『ねーけど』
「え?」
『普通に二階上がれたけど』
「……え?」
慌てて階段を駆け上がって二階に戻る。
「お、お兄、二階にいんの?」
『いる』
「い……いないんだけど」
『……』
「……」
二階の廊下には、誰もいなかった。
シン、と静まり返っている廊下に、携帯からも声が聞こえなくなる。
トッ、トッ、ガチャ、と電話越しに微かに聞こえてくるので、恐らく廊下を歩いたり部屋の扉を開けたりしているのだろう。
でも、兄の姿はどこにもない。
じゃあ、兄はどこに?……俺は、どこに?
俺も、トッ、トッ、と歩みを進める。
半開きになった自室の中には、変わりなく自室の風景があった。
その奥の、閉じた部屋。
あまり開けないそこを、恐る恐る開けてみる。
すると。
「おっ、お兄お兄!階段!階段がある!」
『は?どこ?』
「二階の奥の物置部屋!開けたらめっちゃ急に階段なんだけど!」
『普通の階段?』
「うん。何か二階の階段そのまま持ってきたみたいな感じ」
『降りても大丈夫そうなら降りてみろよ』
「んん……多分、大丈夫そう?」
『ちょっとでも怪しいならやめとけ』
「や、行く。大丈夫だと思う」
何となく、変な感じはしない。
と言っても俺はその辺の鼻が兄より利かないので少々不安だが、どこがどこへ繋がっているのか分からないのはどこも同じだ。
開けた扉が思いも寄らぬ場所に繋がっているよりは、自分の足で進める分やや安心感がある。
俺は慎重に階段を降りた。
『ひな』
「うん?」
『お前が目指すべきなのは、玄関』
「へ」
『いや、玄関じゃなくてもいい。窓でもどこでもいいから、とにかく家から出ろ』
「そ、外に出たらいいの?わかった」
リビングに戻れれば、と思っていたのだが、兄がそう言うならそうする他ない。
この階段が一階に繋がっていてくれるのなら、どこへ辿り着いたとしても玄関までは廊下で一直線だ。……玄関の扉がない、とかでもない限りは、大丈夫なはず。
すると。
バンッ。
開けていたはずの物置部屋の扉が、唐突に閉まった。それと同時に、途端に一面が真っ暗になる。
「へっ!?」
『あ?』
びっくりして振り返る。が、真っ暗なので当然何も見えない。
俺は慌てて携帯に縋った。
「お、お兄!真っ暗になった!勝手にドア閉まったと思ったら真っ暗になった!」
『……勝手に?』
「お、俺触ってないもん!勝手に閉まった!」
『……』
兄が黙り込む。何か考えているのだろうか。声が聞こえないと不安で仕方なくなるから何か喋って欲しい。
怖くて階段に座り込んで縮こまっていると。
ドン! ドンドン!
「ひっ!!」
背後の、扉があった場所から思い切り叩くような乱暴な音が聞こえてきた。びっくりして身体が強ばる。
その弾みで、
ピッ。
ツー、ツー、ツー……。
通話が、切れてしまった。
「へっ!?まっ、え」
慌てて耳から携帯を離し、画面を操作する。
が、いつもならひとつずつゆっくりボタンを押すのに、慌てて操作してしまったものだから何が何だか訳が分からなくなってしまい、妙なページに入り込んでしまった。
「な、なにこれどうやって戻んの!?で、でんわ……うぅ、わかんない……!」
生命線と言っても過言ではなかった電話が切れてしまいすっかりパニックになってしまった俺は、正直今にも泣き出してしまいそうだった。
真っ暗な階段はひんやり冷たくて、俺が黙ると途端にシンと静まり返った。
こんなに静かだと、自分がちゃんと息をしているのかどうかも分からなくなってくる。
不安と焦りと恐怖でいっぱいいっぱいになったとき。
ドン! ドン!
また扉が強く叩かれて、心臓が飛び跳ねる。
弾みで、涙腺が一気に緩んでしまった。
「う、……うえ、うぅぅ~っ」
情けない話、号泣だ。
仕方ないと言ってほしい。前後左右全て暗闇に囲まれて、ライフラインも失い、パニック状態だった訳だ。
もう、怖くて怖くて仕方なかった。
一生このままなんじゃないかと思ったら、訳も分からず涙が溢れ出てきた。
声を上げて号泣していると、ピリリリ!と着信音が鳴り響いた。
ハッ!と携帯を見ると、兄からの着信だった。急いで受話する。
「うえぇ~っ!おにい~っ!」
『えっ、何で号泣』
「うぅ~っ!うえぇぇっ」
『どしたどした何があった』
第一声がまさかの大号泣だったものだから、普段は俺の怖がりを嬉嬉として揶揄う兄も流石に困惑している様子だった。
「どんどん言ってるうぅ」
『は?』
「ドアどんどん言うぅ~っ、うえぇえもうやだぁあ」
『……』
返事がなくなったと思ったら、またドン!と一撃。
「ひうっ!っうぅえぇぇまた鳴ったあぁ」
『……は、はは。なるほど』
兄が急に笑い出して、得心がいったようにそう呟いた。
が、俺はそれにも怖くなってまた泣いた。
何で?今の笑うとこ?お兄までおかしくなった?
『ひな』
「うぅ、っく、うぇっ」
『聞こえてんのかこれ。ひな、あのな、その階段そのまま降りてこい』
「やだやだやだムリだもんこんなん絶対ムリいぃ」
『ムリじゃねーから。じゃあそのままそこいんのか?』
「いる訳ないじゃんかぁあ」
『キレんなって。慌てなくていいから、ゆっくり降りてこい』
「う~っ、うぅ~っ!」
『分かったら返事』
「っんく、うぇえ、はいぃ」
『お利口。電話は繋いでてやっから、ゆっくりな』
と言うと、通話口から何やらバタバタ音が聞こえてきた。走っているような音。
俺はもうこの暗闇で立って歩ける気はしなかったので、座りながら壁に手をついてゆっくり一段ずつ降りることにした。
ず、ず、と下っていくも、変わらず景色は暗闇。
「おにいぃ、おにいぃ」
『はいはい、何』
「う~っ、いるならいいぃ」
『何なんだよ』
「こわいからなんか歌っててよぉ」
『いやだよ』
「うぅ~っ!じゃあ喋っててえぇ」
『よ~ちよち可哀想にね~ひなたくん。もうちょっとだから頑張ろうね~。お~よちよち』
「うぐ、……っうぅー」
そういうことじゃなかったが、喋っていてくれるならもう何でもいい。
電話越しに赤ちゃん言葉で語りかけてくる兄と、何だか腹が立ってきて意地でも泣き止んでやろうと歯を食いしばる俺。
通話を続けながらひたすら階段を下っていると、兄がふとムカつく赤ちゃん言葉を止めて言った。
『ひな、まだ真っ暗?』
「ほえっ」
『ほえって。いや、何か変化ねーかなって』
言われてふと辺りを見渡してみる。が、特に何も変化はないように思えた。涙が邪魔をしているのか、まだ変わらず真っ暗闇なのかいまいち分からない。
ごしごし目を擦って改めて辺りを見渡す。
と。
「……あ」
下の方に、僅かに光が見えた。
縦に伸びる、筋のような光。――まるで、少しだけ開けた戸から光が漏れ出ているような。
「ひ、ひかり。お兄っ、光!」
『っし。目論見通りじゃん俺やっぱ天才だな』
「?」
『その光目掛けて降りてこい。もう大丈夫だから泣くなよ』
何だかよく分からないが、『もう大丈夫』という言葉に一気に安堵感が募る。
俺は光を見失わないようにもう一度目を擦って、階段をひとつ、ひとつと下った。
徐々に徐々に、光が近付いてくる。
あとちょっと、ちょっとだ……!
居てもたってもいられなくなって立ち上がる。転ばないよう壁に手をついて、ゆっくりゆっくり降りていく。
やがて光が目前まで来て、俺はその光に手を伸ばした。
冷たい板のようなものの感触がする。
もしかして、――引き戸?
俺は祈りを込めて一息にその戸を引き、飛び出した。
「おわっ」
視界が急激に明るくなって、目の前に兄の姿が見えた。
「お兄!」
抱きつこうと手を伸ばす。
と。
「いやお前すげー顔!」
ゲラゲラ笑いながら兄がひらりと俺の手を躱した。
あると思った支えが唐突に消え、重心のコントロールが狂う。
俺はそのまま前に転がった。
えっ、草の感触。外?
一瞬手を擽った妙な感触に思いを巡らせる暇もなく、身体が地につく。
「ったぁ!! えっ!?そんなことある!?」
「鼻水すげーんだもん」
感動の再会に抱き着こうとする弟を避ける兄貴がどこにいる!?
非道な兄はケラケラ笑いながら俺の顔を指さして兄に有るまじきことを言う。
むくれながらふと自分が出てきた場所を確認すると、そこは一階のどこでもなく、まさかの外――庭だった。
バッと振り返ると、銀色の小さな物置小屋。
スコップやら園芸用品やらが置いてある、ロッカー二つ分くらいの大きさの小屋だ。
「……えっ、ここから出てきたの?」
「そ」
「……えーっと、……いやもう、何か全然わからん……」
「俺もさっぱりだけど、多分……」
兄の説明によるとこうだ。
何らかの理由で俺はおかしな空間に飛ばされてしまったと。俺と兄が同じ二階にいたとき互いに姿が見えなかったことから、所謂平行世界のような、同時に存在する別の空間だということが推測される。
で、完璧に閉じ込められて遮断されたと思いきや、兄が二階の物置部屋の扉を殴りつけた音が、どういう訳か俺に聞こえた(あのドンドンお前だったんかい)。
そこで兄は思った。
俺、干渉できんじゃん。と。
「後はもう俺がお前をこっちに引っ張り寄せりゃいい訳だ」
「……それが一番ムズくない?」
「まぁ力技だよな」
お、お兄すげー……。
俺のいた階段ごとこちらの世界に引っ張り寄せて、物置小屋の中へ繋いでしまったと、そういうことらしい。
どうやったらそんなこと出来るんだよ。人智超えてない?大丈夫?
何はともあれ、また助けられた訳だ。
俺はズズッと鼻をすすって立ち上がった。
「はー……ありがと、お兄」
「お前中学上がったくせに全然泣き虫直んねーな」
「いや違うし!!あれはしょうがないと思うんですけど!!」
「いやー笑った。マジでひでー顔してんだもん」
「……」
何故綺麗に締めさせてくれないのか。
家の玄関へ踵を返す兄の背をじとりと睨めつけて、ふと素朴な疑問が湧いた。
「ていうか、それじゃあドア閉めたのもお兄?」
「あ?」
「や、階段のとこの……てか、二階の物置部屋の扉?俺閉めてないのに急にバンッ!て閉まったから超びっくりしたんだけど」
「……いや、俺はむしろ開けようとしたら開かなくて叩いてたんだけど」
「えっ」
…………。
沈黙。しかし、兄がすぐにまた踵を返して言った。
「まぁ、んなこともある」
随分雑把な締めだなとも思ったが、扉が勝手に閉まるなんて可愛く思えるくらい訳の分からないことが起こったのだ。
確かに、気にするだけ無駄かもしれない。
俺はひとり納得して、兄の背を追った。
☆
「えっ、寝んの?」
「寝るよ。ねみーもん」
「やだやだゲームしよ寝ないでやだやだ」
「中学生の駄々っ子はさすがにもう無理あるって」
「っせーなこっちはまだ怖いんだよ!お願い!ゲームしてください!」
「ごめんなさい。おやすみ」
「丁寧に断んな!」
俺の必死の訴えも虚しく、兄はソファに寝転がってそのまま眠ってしまった。
テレビは付けっぱなしだが、どうにも不安。
また何かあったら。
と、そういえば俺も昼寝しようと思ってたんだったと思い出す。
起きて不安でいるより、いっそ寝てしまった方がいい……か?
俺は少し考えてから、ソファで眠る兄の腹に腕を置いた。
「んん……重い……」
文句を言う兄を無視して、その上に頭を乗せる。
身体に触れていればまず安心だろう。
先程あったことなど嘘だったかのように、長閑な空気が部屋に流れる。
俺は兄の腹を枕にして、少しだけ昼寝することにした。
ともだちにシェアしよう!