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#23 元カノ

 兄は本当に本当にモテる奴で、当然ながら今までの交際人数も多い。ちなみに自分から告白したことは全く……――一度を除いて、全くない。『一度』の話はまたの機会にするとして、とにかくだ。兄はそれくらいモテたのだ。  基本的に馬が合う相手なら年上年下同級生関係なく付き合っていたが、一つだけ『彼女の条件』というものがあった。  それは、『霊感がないこと』だ。  恐らく、このエピソードが理由だと思う。  俺が中学二年、兄が高校一年の、秋頃の話だ。  その日俺は、学校から帰ってきてすぐに兄の部屋へ向かった。夕食の相談のためだ。父は二泊三日の出張に出かけており、昨日夕食を作った兄と交代で今日は俺が作ることになっていた。 「ただいまー。お兄ー、今日親子丼で良、い……」  ノックもせずに部屋を開けると、ベッドの上で制服姿の見知らぬ女子に兄が覆い被さっていた。  戸を開けるなり固まった俺に、兄が呆れた顔をする。 「お前な……ノックしろよ」 「ご、ごっ、ごめん!なさいっ」  目を逸らしながらすぐに戸を閉める。  そのまま兄の部屋の前で立ち尽くし、『うわー!』と頬を両手で挟んだ。熱い。顔が熱い。何か気まずい場面を見てしまった。  戸の向こうから僅かに聞こえる「弟くん?」「そう」という声にハッとして、慌ててその場を立ち去る。  まさか兄弟のそういうシーンに遭遇する日が来てしまうとは……。  ふと気を抜くとすかさず脳裏に潜り込んでくる先程の光景に必死で頭を振りながら、俺は買い物に出かけた。 ・ ・ ・  近所のスーパーで買い物をして、何となく帰りづらかったので遠回りして家へ帰ると、 「あっ」 「あ」  その遠回りが仇となったようで、ちょうど兄の彼女が玄関で靴を履いていた。  持ち上がった顔を正面からちゃんと見て、『綺麗な人だなぁ』と思う。  中学校の制服が学ランとセーラー服だったため、彼女の着ているブレザーは何だかすごく大人っぽく見えた。  彼女は肩下くらいまでの黒髪をサラサラ揺らして、俺に微笑みかけた。 「お邪魔しました」 「は、う、はい」  咄嗟に壁際に退けた俺に「ありがとう」と言って、彼女が玄関を出る。 「じゃあ夕影くん、また明日」 「おー」  戸が閉まり、手を振る彼女の姿が見えなくなる。  人を見送った後の僅かな沈黙の中、俺は兄に言った。 「あ、あの、……ごめん。次からはちゃんとノック気を付ける」 「あ?別にいいよ」  兄は本当に全く気にしていない様子でそのまま二階へ上がっていった。  ……それもそれでどうなんだ。 ☆  次に彼女と会ったのは、その一週間後くらい。  家の鍵を忘れてしまい軒先で座り込んで兄の帰りを待っていると、兄は彼女を連れて帰ってきた。 「あれ、何してんの」 「鍵忘れたんだよ~。早く開けて、寒い」 「……マジ?」  兄と彼女が顔を見合わせる。首を傾げていると、兄がげんなりしたような顔で言った。 「俺も鍵忘れた」 「……マジ?」 「マジ」 「ウッソだろ……」  がくりと肩を落とす。  兄の横で、彼女がのんびり「あらら」と言った。ドサリと兄が俺の隣に座り込む。 「ごめん。つー訳で家入れねーみたい」 「ううん、仕方ないよ。それより弟くんずっとここで待ってたの?風邪引いちゃうよ」  サラリと髪を揺らして彼女が俺の顔を覗き込んできたので、こくりと小さく頷く。  兄もこちらを見遣った……が、何『こいつ貧弱だからなー』みたいな顔してんだよ。  返事代わりにムッとした顔をしてみせると、兄は俺の両頬を摘んで横に引っ張った。 「いひゃいいひゃい!」 「どーすっかな、父さんの会社まで鍵取りに行く?」  疑問形なのに頬を引っ張ったままでまるで返事をさせる気がないのは全く腑に落ちないが、俺は大きく首を縦に振った。 「んじゃ、俺ら鍵取りに行くわ」 「そっか、分かった。それじゃあ私は帰るね」 「おー、ごめんな。この埋め合わせはまた」 「いいよいいよ、気にしないで」  風邪引かないようにね、と柔和な笑顔を見せて彼女が帰っていく。  兄も彼女もまさか俺まで鍵を忘れたとは思いもしなかっただろうな、と少し罪悪感。……つーかいつまでほっぺ引っ張られなきゃなんねーんだよ!  仕返しとばかりに兄の頬を摘むと、兄は慌て気味に俺の手を掴んだ。 「冷た」 「ずっとここで待ってたもん」  そう言うと兄は、俺の手を自分の手ごとカーディガンのポケットに突っ込んだ。いつも通り、ポケットに手を突っ込んで歩いていたのだろう。ポケットも兄の手も暖かかった。 「お兄は彼女さんと遊びに行ってよかったのに。家じゃなくても他に遊ぶ場所あるでしょ」 「お前父さんの会社どこにあんのか知らねーだろ」 「……まぁ、そうだけど……じゃあ帰ってくるまで待ってれば……」 「風邪引くタイプの馬鹿なんだからお前」 「んだと!じゃ、じゃあ父さんに電話して行き方聞けば……!」 「携帯も持ってなきゃ家にも入れねーのに?」 「…………」 「ばーか。いいから黙って頼っとけ」  はい論破。  携帯で父の会社への経路を調べ始めた兄の横で、俺は己の無力さを痛感した。  中学校は携帯の持ち込みが禁止されていたので、手元に自分の携帯がない今、確かに兄に頼るのが一番手っ取り早かった。  結局その後無事に父の職場へ辿り着き、鍵を受け取って二人で家へ戻った。 ☆  その後もどうしてか、家や帰り道などで兄と兄の彼女が一緒にいる場面に頻繁に遭遇し続けた。……しかも、キスをしそうなときや手を繋いで仲睦まじそうにしているとき――有り体に言うと、『イチャついている』ときばかり。  初対面の気まずさを引き摺っていた俺は『この間の悪さ、どうにかならないものか』と少し悩んでいた。のだが。  異変は、徐々に起きていった。  主な違和感は視線。どこにいても何をしていても、誰かに見られているような気がした。  気のせいで済むなら良かったのだが、生憎その違和感は俺の第六感――つまり霊感が感じ取るものだった。  感じた瞬間ぞわりと総毛立つような、そんな違和感。  気味悪いな……と思いつつそれ以上は何もなかったので、ひとまず様子見に徹していたある日。  学校が終わり、寄り道しながら帰路を共にしていたタケと途中で分かれ、一人で歩いていたときだ。  ふと視線を感じて、ぞわりと肌が粟立った。  次いで、内側から込み上げてくる吐き気に襲われる。 「う、……うえ゙っ、」  道端で蹲ってえづいていると、視線を落としていたアスファルトにふと影が差した。  口元を抑えたまま青い顔を上げると、そこには心配そうな顔をしている兄の彼女の姿。視線が合うと、俺達は二人揃って「あっ」と声を上げた。 「夕影くんの弟くん、だよね。大丈夫?体調悪いの?」 「え、あ……、だ、大丈夫です」  へらりと笑顔を作ってみせる。  少し気持ち悪さは残っていたが、人と言葉を交わして気が紛れたらしい。先程よりはマシになった。  ――気が、したのだが。 「そっか。良かった」  にこり、と彼女が笑った途端、全身の毛穴が開くような感覚と悪寒に襲われ、一気に吐き気が戻ってきた。  パシッと再び口元を手で抑え、喉元まで出かかった胃液を必死で飲み込む。 「す、すみませ……ゔ、ぅえ゙」  みるみる内に脂汗が滲んでいく。俺の第六感が訴えていた。  ここにいてはいけない、と。  俺は咄嗟に踵を返して、驚く彼女の声に返事もせず走り去った。  胃がひっくり返りそうになるのを何度も抑えて走る。  ――角を曲がったところですぐ目の前に人影が見えて、慌てて急ブレーキをかけた。  危うくぶつかるところだった。謝ろうと思いその人を見る、と、  彼女が立っていた。  ヒュッと息を呑む。  彼女は先程の心配そうな表情や穏やかな笑顔とは打って変わり、能面のような顔をしていた。  何の色も宿していない瞳が、俺をじっと見つめている。  異様な気配、周囲から浮くほどの存在感、ゾッとするほどの無表情。  ……それに、さっき会った場所と時間を考えれば、ここに彼女がいるのは有り得ない。  一瞬で分かった。  彼女の、生霊だ。  やけに生白いその顔を見ながら、じりじり後退る。その間にもどんどん悪寒は強まっていた。  俺を見る彼女の目は、どうしてか無性に居心地の悪くなるものだった。何の感情も見えないのにすごく嫌な感じがして、ゾワゾワと鳥肌が立ってくる。  ここ最近の妙な感覚は、このせいだったのか。あの視線は、彼女の視線だったのか。  ……何で?  そんなことを考えていると、彼女が一歩足を踏み出した。  ハッとして踵を返す。俺は再び駆け出して彼女から逃げた。  我武者羅に走っている内に辿り着いたのは、中学校の近くにある公園だった。狭い上に遊具も少ないので、放課後の時間帯でも人気は一切ない。  走り疲れて公園の入口で立ち止まり、荒い息を整える。  のろのろと入口を潜り、ドーム型の遊具の中へと身体を滑り込ませた。  体育座りで何度か深呼吸をすると、徐々に気分が落ち着いていく。夢中で走っている内にいつの間にか悪寒も吐き気もなくなっていたようだ。 (………あんな生霊飛ばしちゃうくらい、俺のこと嫌いだったのかな)  ぼんやりそんなことを思うと、曲がり角で見たあの能面のような顔が頭に浮かんできて、思わずぶるりと背筋が震えた。  ぶんぶん頭を振って記憶の中の顔を脳内から追い出す。  入口から顔を出し見上げれば、空は夕焼け色。  ……家に帰ろうか、少し迷ってやめた。  彼女……生霊じゃない方の彼女が俺の帰路にいたということは、恐らく兄に会いに柳家へ向かっている途中だったのだろう。ということは、今家に帰れば彼女がいる。  とりあえず彼女のことは忘れて、このままここで国語の教科書でも読んで時間を潰そう。  そう思い通学鞄に手を伸ばすと、ゾクッと鳥肌が立った。  見られている。  咄嗟に膝に顔を埋めた。すぐに『逃げ出すべきだった』と頭の中で後悔したが、今更身体は動かない。  俺が身を潜めたドーム型の遊具には、ちょうど座り込んだときの目線の位置にぐるりと等間隔で穴が空いており、小窓のようになっている。  顔を上げれば、目の前の穴から彼女の能面のような顔がこちらをじっと見つめている……そんな想像が、脳裏から離れなかったのだ。  顔を伏せながら気配に全感覚を研ぎ澄ませて、どれだけ経った頃だろう。  ふと、遠くから駆け寄ってくる足音が聞こえた。途端にずっと近くにあった気配がスッと消え、俺はパッと顔を上げる。  辺りはすっかり薄暗くなっていた。 「ひな!」 「おに……ひぅっ、」  駆け寄ってくる兄に安堵したのも束の間。兄の少し後ろに彼女がいて、俺は思わず後ずさった。  が、ハッとして取り繕う。遊具の入口に這い寄ると、兄が膝をついて俺と視線を合わせた。 「お兄、何でここに……」 「………」 「お、お兄?」  神妙な顔で黙り込む兄に首を傾げると、近くまで来た彼女が口を開いた。 「さっき道で会ったとき、体調悪そうだったでしょ?それから中々家に帰って来なかったから心配になって探しに来たの」 「……そ、そうだった、んですね……ごめんなさい………お兄も、ごめんね」  彼女に謝り、兄の顔を覗き込む。俯いたその顔は変わらず神妙なままで、返答もない。  ……怒っているのだろうか。わざわざ探させてしまったのだ、怒られても仕方ない。  しゅんとして俯く。 「迷惑かけてごめんなさい………」  もう一度二人に向けて謝ると、兄は黙って俺の頭をくしゃりと撫で、立ち上がった。そのまま踵を返す。  その背を見ていると、彼女がこちらへ近寄ってきた。  後退りしそうになるのを必死で抑えて、心臓をバクバク鳴らしながら彼女の顔を見る。  彼女はしゃがみ込んで俺と視線を合わせると、ふわりと綺麗に微笑んで口を開いた。 『君は邪魔ばかりするね』  ビクリと肩が跳ねた。  ――声が、背後から聞こえたのだ。  目の前で彼女が口を開き、確かに何か言葉を発したはずなのに、その音は、背後から。  ……口の動きが、音と一致していなかった。まるで吹き替えみたいに。  顔を強ばらせて固まっていると、彼女がぱちぱち瞬いた。 「どうしたの?まだ具合悪い?」  今度は、目の前から声が聞こえた。  とても心配そうに俺の顔を覗き込んでくる彼女に混乱して、俺は咄嗟に「だ、大丈夫なので先に行っててください」と口走った。  心配そうに何度かこちらを振り返りながら去って行く彼女の背が遠のくにつれて、背後の "気配" もゆっくり消えていった。 ☆  少し時間を置いて家に帰り、恐る恐る玄関を開けるとそこにはある日のように彼女の姿が……ということはなく、俺はホッとして家へ上がった。  玄関に靴はひとつ。居間の電気が点いていたので、兄はそこにいるのだと分かった。 『君は邪魔ばかりするね』  彼女の――彼女の、生霊の言葉が脳裏を過ぎる。  生霊は本人の分身みたいなものだ。あれが、彼女の本心だったのだろうか。  『邪魔』。  ――そういえば。  友人に彼女ができたとき、小学生の妹がいるから家に中々呼べないと嘆いていた。  ……兄も、同じことを思っていたかもしれない。  俺を邪魔に思う瞬間があったのではないか。そう考えると何だか胸が締め付けられて痛かった。  ひとまず今日のことをもう一度謝ろうと思い、居間に顔を出した。  ソファーでテレビを見ている兄に恐々と声をかける。 「お、お兄」 「ん。おかえり」 「ただいま………あの、ごめんなさい」  俺がそう言うと、兄はしばらく黙って溜め息を吐いた。  ビク、と身体が強ばる。  そ、……そりゃ流石に怒るって。  携帯も持っていない中学生を見つけ出すなんて、どれだけ探し回ればいいのか。俺がさっさと家に帰っていれば、心配かけることもなかったのに。  罪悪感に居心地の悪さを感じ視線を下の方で彷徨わせていると。  兄が俺の腕を引っ張った。  「わっ」とバランスを崩して、俺は床にぺしゃりと座り込んだ。ソファに座る兄が、俺の両頬に手を添えて顔を上向かせる。  目が合うと、兄は思いっ切り眉を顰めた。 「……完っ全に俺の負け」  心底悔しそうにそう言うと、兄は俺の肩口に顔を埋め「は~……」と長い溜め息を吐いた。  ぱちくりと瞬く。 「……負け、とは?」  聞くと兄は顔を上げて、俺のきょとん顔をぶにっと潰し(何でだ)その間抜け顔をしばらく眺めると、肩を落としてまた「は~~………」と長い溜め息を吐いた。 「……全く気付かなかった」 「?」  何のこと?と首を傾げると、兄は俺の頬から手を離して言った。 「生霊」 「!」  俺は目を見開いた。……恐らく公園に駆けつけたときに初めてその姿を見たのだろう。  確かに、異様に勘の鋭い兄にしては珍しい。 「何で気付けなかったんだ?あークソ、マジで悔しい。あいつの霊感のが強かったってことか?」  自分が情けない、と本気で悔しがっている兄に俺は何も言えずにいた。  兄のこんな様子は正直珍しすぎて、何と言えばいいのか全く分からない。  目を丸くしたまま黙っていると、兄がぽつりと呟いた。 「……負けっぱなしはぜってー嫌だな」  兄の目は闘争心に燃えていた。  めっ……珍しい……!レア中のレアだ!物事に興味が薄く、勝負事に本気になることなどほとんどないあの兄が、本気で悔しがって燃えている。  ……それが霊感勝負なのは少々如何なものかと思うが。 ☆  その後、兄は徹底的な情報収集を始めた。  その結果、彼女について分かったことがある。  ひとつめは、生霊を無自覚で出していたこと。  ふたつめは、『たまぁに "視" えるだけ(彼女談)』の霊感があったらしいこと。  が、あの兄に悟られないよう生霊を飛ばすなど、並の霊感ではない。  これについては、兄の「ゲームのステ振りで言えば、『"視" る 』とか『"聞" く』とか差し置いて『生霊を出す』っつー項目に極振りした状態」という説明がめちゃくちゃ分かりやすかった。  そして、みっつめ。兄と二人のところを尽く邪魔していた俺を、あまり快く思っていなかったこと。……うん、それはほんとにすごく申し訳ない。  更に、よっつめ。 「た、体質ぅ?」 「そう」  兄が言うには、彼女さんは事ある毎に生霊を飛ばしていたらしい。  兄の部屋のベッドで寝転がっていた俺は、おもむろにそれを口にした兄へ胡乱な目を向けた。 「お前がやたら引き寄せる体質なのと同じで、多分あいつもやたら生霊飛ばす体質なんだよ」 「そんな人いんの!?」 「俺も流石に初めて見たけど、あいつ掃除変わってくれって頼まれただけで出しかけてんだもん。『いいよー』って言いながら」 「ええ……け、結構あの……激しめな人なんだね……」 「あいつも悪気はねーんだよ。無自覚だしな。そもそも『やだ』って言えねー奴でさぁ、心の中では嫌がってんのにどう頑張っても表に出せないから結果その本心が分離して生霊になるっつー感じ」  庇うようなその言い振りに、俺はぼんやり『あぁ、こんな奴でも何だかんだ彼氏なんだなぁ』と思った。 「……やっぱ彼氏はよく分かってるね」 「いや、俺もう彼氏じゃねーけど」 「え!?」  何でもない顔で言う兄に目を剥く。いつの間に別れた!?  聞けば、ある程度彼女の生霊について把握したところで穏便に振ったらしい。  何故、と問えば、 「"視" えるようになったら今度気になってしょうがねーんだもん。無自覚とは言えトイレまで着いてくんだぞあいつ。の、生霊」  ……だ、そうだ。  正直、同じ厄介体質として同情せざるを得なかった。きっと彼女自身はただ『一緒にいたいな』と思っただけだったろうに。  兄に霊感がなければ、別れることもなかったのだろうか。 「人間、ちょっと図々しいくらいがちょうどいいな」  兄はそう言って、俺が持ってきていたグミの袋を横から奪い取った。 「おい!」 「一個だけ一個だけ」 「いや三個取ってんじゃん!お前は図々しすぎ!」  奪い返したグミの袋を覗いて「あと二つしかないじゃん……」と嘆く俺の横で、兄はケラケラ笑いながらグミを口に放った。  当分彼女できなきゃいいのに……。  俺の心の恨み節も虚しく、数週間後にはまた新しい彼女が出来ていた。くそう。

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