36 / 49

#30 冬の桜

#30 冬の桜  高校一年の冬。俺は駅で人を待っていた。  はーっと吐いた息は白く濁り、啜った鼻には冷気が飛び込む。辺りを見るとどこもかしこも真っ白で、空を仰げば雪がちらついていた。  数年に一度の寒波が来ているらしい。……が、この土地は毎年冬になるとドカドカ雪が降るのでイマイチその『数年に一度の寒波』とやらの強さが分からない。冬は常に寒い。  手のひらを擦り合わせていると、待ち人が来た。俺を見つけてこちらへ駆け寄ってくる彼に、大きく手を振る。 「ごめんね陽向くん、寒かったでしょ」 「いえいえ、俺もさっき着いたので」  俺が待っていたのは雪見さんだった。何故彼と待ち合わせをしていたのか、簡潔に説明をしよう。  事の発端は俺が雪見さんに借りを作ったことだった。  昼休み。現代文の授業で好きな小説の感想文を書くという課題が出ていたので、本を借りるため図書室へ向かったところ、悪趣味な幽霊に悪戯をされて俺の目の前の本棚から本がバラバラと滑り落ちてきたのだ。  間一髪顔に直撃するところだった一冊を止めてくれたのが、たまたま近くにいた雪見さんだった。 「あ、ありがとうございました……!」  雪見さんがパラパラめくっているその本を見て震える。めちゃめちゃ分厚い。こんなのが顔に当たったら、鼻血どころじゃ済まないと思った。  「いいえー」と微笑む雪見さんに本を戻す手伝いと、悪戯をしてきた幽霊の片付けまでしてもらい、感謝しきりだったところ。 「じゃあ今日のは貸しってことで、借りを返してもらってもいい?」  嫌な予感がしつつも聞くだけ聞いてみようと恐る恐る尋ねると、 「冬の桜を見に行かない?」  そう言われた。  兄は「怪しすぎるやめとけ」とギリギリまで反対していたが、好奇心と『借りを返さなければ』という正義感に負けて結局申し出に応じてしまったのだった。 「い、一応もっかい聞きますけど、怖い思いはしないんですよね?」 「しないよ、大丈夫。俺も夕影くんに恨まれたくないしね」 「ならいいんすけど……」  未だに若干半信半疑ながらも頷くと、雪見さんは「じゃあ行こう」と駅を指さした。  『冬の桜』は、電車を二つ乗り継いだ終点の駅で見られるらしい。  待ち合わせの駅で電車に乗り込んだときはそれなりに車内が混み合っていたが、その内だんだんと減っていき、目的地に着く頃になると車両内には俺達二人の姿しかなかった。  無人の改札を潜り、駅を出る。 「わ~、こんなとこにまで路線繋がってんだ」  しばらく歩いて辿り着いたところは、どうやら山の麓のようだった。雪道は人の足跡が少なく、除雪も然程されていない。 「用があるのはこの林の中」  雪見さんが顔を向けた先。白い木々が生い茂っている。  嫌な感じは、ない。  山の麓と言えば某自殺の名所が浮かぶが、そういったスポットではないらしい。歩いていく雪見さんの後を追って、俺も林の中へ入っていった。  『冬の桜』って何なんですか、という質問は既に何度かしていて、その全てに「そのままだよ」とだけ返された。実際に見るまでまともな返事は期待できないだろう。  歩いていると、雪見さんが静かに、穏やかに言った。 「陽向くんのお父さんはどんな人?」 「え」  俺は虚を突かれたように目を丸くした。雪見さんは、いつものたおやかな、手の内の読めない微笑みを浮かべていた。 「……何で気になるんですか?」  努めて平静を装った俺のその問いに、雪見さんは柔らかい顔色を変えないまま「何となく」と言った。  食えない様子に少しムッとすると、雪見さんは「そんなに可愛い顔しないで」と俺をからかった。そして観念したように口を開く。 「本当に何となくだよ。何となく、二回目に会ったときに俺が言った『父親を呪いたい』って言葉に対する反応が、何となく気になってただけ」 「……何か、ありましたっけ?」 「あ、とぼけてる。あのときも言ったでしょ?『俺と同じ気がするから』って」  覚えている。  雪見さんに『友達になろう』と言われたとき、同時に言われた言葉。  ……でも、父親のことは話したくない。虫酸が走る。  だから俺は、何も言えなかった。 「……」  ぎゅ、ぎゅ、と足が雪に埋もれる音だけが響く。雪見さんは、俺が何も言わないことを分かりつつ言葉を待っているようだった。  今度は俺が観念する番だった。 「……俺も、実の父親は嫌いです」  眉根を寄せながら俺が言うと、また少しの沈黙。俯いて白い地面と自分の足を見ているから、雪見さんがどんな顔をしているのか分からない。  すると不意に、   「おんなじだ」  そんな、少し嬉しそうな声が聞こえて、俺はつい雪見さんの顔を伺ってしまった。  雪見さんはいつもの柔和な笑みとは違う、少し砕けたような笑みを顔に浮かべていた。  その顔を見たのがいけなかった。  雪見さんが年相応の笑顔を浮かべているのが新鮮で、つい少しだけ緊張が緩んでしまったのだ。 「『実の』ってことは、『実の』じゃないお父さんがいるってことかな?」 「あぁ、はい。俺、元は『柳』じゃなくて……あ」  言ってしまってから、数秒前に既に失言していたことと、たった今その失言に更に失言を重ねたことに気が付いた。  間抜けに開いた『あ』の口のまま雪見さんを見つめる。 「もう言い逃れできないんだし、開き直っちゃいなよ」  雪見さんはそう言ってにこりと何ら悪びれる様子もなく爽やかに笑った。  俺はそのあまりにあっけらかんとした顔に、思わず吹き出してしまった。 ・ ・ ・ 「……俺、元は『佐原』っていうんです。つっても全然馴染みないけど」  何をどこまで話そうかと考えるのにしばらく時間を使って、やっと口を開いたものの、未だに俺はこれを口にするべきなのか分からなかった。  誰にも、兄にも話したことのない話だ。  実父の話が柳家でされたことは、俺の知る限り一度もない。  話したらどうなるのだろう。思い出して、どうなるのだろう。 「……お兄と、今の父さんとは、血が繋がってなくて」 「うん」  口ごもってつっかえつっかえになる俺を、雪見さんが真っ直ぐな相槌で支える。 「……実の父親とは、会ったことなくて。物心ついたときから俺は母さんと二人暮らしで、」 「うん」  それで、……それで、 「父親は、母さんが俺を妊娠したとき、その、……堕ろさせようと、したらしくて」 「うん」 「でも、母さんは、俺を産みたくて、それで喧嘩になって、父親は、多分、……その、……多分、」 「……言いたくないことがあれば、言わなくてもいいよ」  短い相槌しか打たなかった雪見さんが、初めてそう言った。  でも俺は、もう何となく分かっていた。  ずっと、ずっと、誰かに聞いて欲しかったんだ。  母さんの想いを、母さんがどれだけ頑張って俺を育ててくれたのかを、誰かに知ってもらいたかったんだ。  目を背けて押し隠してきたことだった。  でも、いざ口にしてみると溢れるように言葉が、想いが出てきて。  俺はもうこれを止められなかった。  俺は雪見さんに首を振って続けた。 「父親は、多分、……母さんに暴力を振るって、流産させようとしたんです。でも母さん、お腹だけは必死で守って、それで、」  それで、逃げた。母さんの実家に。そこで隠れて俺を産んで、少ししてから遠くの街──日入に越してきて、小さなアパートを借りて、一人で俺を育て始めて。愛情いっぱい注いで育ててくれて、俺はどんどん大きくなって。  拙い俺の語りに、雪見さんが時折「うん」と相槌を挟む。 「それで、小学校に上がる前に母さんが今の父さんと一緒になって、苗字が『柳』に変わりました。……でも俺、知らなかったんです。二人で暮らしてたとき、アパートに実の父親が何度も訪ねてきてたこと」 「……遠くから日入に越してきた、って言ってたよね?」 「はい。父親は粘着質で、利己的で、神経質で、……もっと悪く言うと束縛的とか、ストーカー気質とか、そんなところでして」 「そっか」  母さん曰く、外面は良かったらしいが。  大手企業で働く真面目で優秀なサラリーマン。  だからこそ、描いていた人生設計があったのだろう。  母さんとは婚前の仲だったから、俺を堕ろさせたかったのもきっと、理想の設計が狂うから。 「今思えば、確かに変だったんですよね。『職場の人が仕事のことで来てる』なんて言って外に出て、しばらくして戻ってきたらほっぺに叩いたみたいな傷がついてたことがあって」 「その父親がやったの?」 「多分。というか、間違いなく。でも母さん、『転んじゃった!』なんていつものとびきり明るい笑顔で、俺に、……っ俺に、心配、……かけさせないようにして、」  ──あぁ、思えば、そんなことはたくさんあった。  何故か膝を擦りむいて帰ってきた日。  何故か服を乱して帰ってきた日。  何故か鼻血を出して帰ってきた日。  何故か身体中に土をつけて帰ってきた日。  あの全てが、きっと父親に繋がっていたのだ。  どうして気付けなかったのだろう。  笑う母さんに、俺はいつも『ドジだなぁ』なんて笑っていた。  馬鹿か。  ……。  涙が滲んできた。  あぁ、やだなあ。こんなに寒かったら涙なんて凍っちゃうんじゃないの。  グズッ、と鼻を啜って目にギュッと力を込めると、不意に雪見さんが立ち止まった。 「陽向くん、見て」  釣られて立ち止まり、雪見さんの指さした先に顔を向ける。  目の前に広がっていた光景を見て、俺は目を見開いた。  反動で目の淵に引っ掛かっていた涙がゆらりと揺れて、落ちる。  そこには、雪の被った大きな白い一本の木と、白雪の下から覗く淡色の桜があった。  見上げるほどの木を、花弁の桜色と雪の白が一面覆っている。──幻想的な、風景。  息を呑んだその瞬間、冷たい横風が吹いて桜色と白が虚空に舞った。  風にあおられて紙吹雪のようにどんどん宙を舞っていくそれをぼーっと見ていると、いつの間にか目の前の木はただの冬木になっていた。  慌てて辺りを見回すが、今しがた散ってしまった桜色はどこにも見当たらない。見渡す限り、白だった。 「今のは……」  呆然と目の前の木を見ながら呟くと、雪見さんが穏やかに言った。 「見えたんだね。良かった」  横を見遣ると、雪見さんが優しい表情で木を見つめていた。未だ呆ける俺に、雪見さんが微笑みかけてくる。  そこで俺はふと思い出した。 「雪見さん、 "視" えないんじゃ」 「うん。だから気になって。……俺、ここに桜を見に来たことがあるんだ」 「こんな遠くまで……」 「すごく綺麗だったよ。それで、たまたま冬に来たときにね、この木だけ同じ空気を感じたんだ」  桜が咲いているような、そんな春の空気。  雪見さんがそう言いながら俺の頬に手を伸ばし、涙の跡を拭う。 「だから、本当に桜が咲いてるのかなってずっと気になってて」 「それで俺を……」  やっぱり、怖い思いなんてしなかった。  疑ってしまって申し訳なかったな。 「咲いてましたよ。ちゃんと」  へら、と笑うと、雪見さんは優しい顔で「うん」と言った。 ☆  来た道を戻っていると、雪見さんが口を開いた。 「死にに来たんだ」  世間話でもするみたいなその声音に、うっかり「へぇ」と返事しそうになった。 「……え?」 「あぁ、今日じゃないよ。さっき言った『たまたま冬に来たとき』の話」  いやいやいや、にしてもだろう。  俺が何をどう聞こうかと混乱していると、雪見さんはふふっと笑って「今度は俺が喋らなきゃね」と言った。 「姉が死んだんだ」  俺は、変わらない声音で告げられたそれに目を見開いた。  雪見さんはそんな俺へにこりと一度笑いかけて前を向き、語り始めた。  ──夏の、深夜三時。眠っているときだった。  俺と姉さんは同じ部屋だったんだけど、母さんの悲鳴で二人揃って飛び起きたんだ。  それで様子を見に行こうと廊下を飛び出たら、先に部屋を出た姉さんが目の前で刺された。  俺は慌てて部屋に戻って、窓から飛び降りた。  マンションとかじゃなくてよかったよね。一軒家の二階だったから、奇跡的に捻挫で済んだ。それでも打ちどころが悪ければ大怪我じゃ済まなかったかもしれないけど。  ──……淡々と語られるそれに、俺は相槌を挟むこともできなかった。聞くのもつらい、凄惨な記憶。  ……こうも冷静に語れるのは、月日が経ったからなのだろうか。  雪見さんは続ける。  ──俺が飛び降りたのは見えたと思う。でも、外まで追ってくることはなかった。  俺が足を引きずりながら公衆電話まで行って、通報して、家に警察が到着したときには、…… 「……分かる?この話の犯人」  雪見さんは、唇に薄い笑みを乗せて言った。  今まで呆然と聞いていた雪見さんの話を反芻して、それから今までの言動が甦ってきて、……そして、分かった。分かってしまった。 「……お、父さん」  強張る口で答えると、雪見さんは「正解」と笑った。……笑っているように見える、笑い顔。 「家に警察が到着したときには、父は姉の血溜まりの中でただ泣いていたそうだよ」  泣くくらいなら最初からやらなければよかったのにね。  ニコッと場違いなほどたおやかに笑いかけてきたが、その声音は鋭くて冷たい。  ……無理心中を図った、ということだろうか。  雪見さんは前に向き直り、続けた。 「何でこんなに淡々としてるのかな、って思ったかな」 「えっ……いや、その……」 「ふふ、いいんだよ。実はね、俺自身は当時のこと何も覚えてないんだ」 「えっ」 「事件の概要は全部警察の人の話と、ニュースの情報。父に刺されて半身不随になった母さんが病院のベッドに横たわりながら声を上げて泣いているのを見て、『とんでもないことが起きたんだ』ってやっと実感が湧いたよ」  それで。  雪見さんが、淡々とした口調に少し温度を戻す。 「それで、死のうと思って。事件のことでも色々あったから。……何となく、分かるでしょ」  にこ、と笑う。今度は、繕ったのが分かる笑みだった。  俺はそれにおずおずと頷いた。  父親が起こした凄惨な無理心中未遂。近所で、学校で、街で、噂にならない訳がない。  実際、俺の頭にも『昔そんな事件があったかもしれない』と思い浮かんできていた。  でも、日入じゃない。それにその家族は『雪見』なんて苗字でもなかった気がする。  雪見さんは、そんな俺の疑問に答えるように続けた。 「ここで死にたかったのは、昔家族で遠出したときにここに来たから。地元から遠く離れてたしね」  あぁ、そうか。そうだ。事件が起こったのは、こことは真反対の県だった。 「でも、いざ死のうとしたらさ。冬なのに、昔春に来たときと同じような空気で。暖かくて、のんびりして、……何だか死ぬ気失せちゃって。それでとりあえず地元に戻って、また死に場所を探そうと思ったらね、母さんが『やり直そう』って。それで、母さんの旧姓の『雪見』に名前を変えて、日入に来たんだ」  引っ越してきたのも陽向くんと同じだね、と雪見さんが嬉しそうに笑う。  あぁ、そうか。そうだ。あの家族の苗字は確か、すごく一般的なものだった。思い出せないくらい、普通の。  ……あぁ、そうか。  あの桜は、雪見さんの命を救ってくれた桜だったのか。 「……雪見さん、やっぱり呪いなんて、やめてくださいね」  涙が零れそうになるのを必死で堪えながらそう言った俺を見て、雪見さんは少し泣きそうな顔で笑いながら「……そんなに可愛い顔しないで」と言った。 ☆  帰りの電車。  俺達以外に誰もいない車両に乗り込んで、言葉も交わさずただ揺られていた。  ふと、雪見さんの右手首が俺の左手に当たる。 「冷たい」 「手袋忘れちゃって」  俺がそう言うと、雪見さんは自分の手袋を外して素手になった。俺の左手を取って、緩く握る。  生きている人間の体温だった。  じわりじわりと雪見さんの体温が移ってきて『暖かいな』と思っていると、不意に手が離れる。  あ、と思ったのも一瞬で、雪見さんは俺の手に小さなカイロを持たせた。  「あげる」と微笑む雪見さんにお礼を言う。  ズズ、と鼻を啜る。  人肌よりも暖かいカイロを両手に握りながら、ほんの少しだけ寂しいような気持ちになった。  待ち合わせをした駅で雪見さんと別れ、家に帰る。  鍵は持っていたが、何となくインターホンを鳴らした。  少しして、ドアが開く。兄が不機嫌そうな呆れ顔でドアノブを握っていた。 「鍵は」  聞かれたそれに、「あるよ」とポケットから出した鍵を持ち上げて見せる。  兄は溜め息混じりに「何なんだよ」と呟いて、ドアの向こうに引っ込んでいった。  家の中へ入り、兄を追って居間へ行く。暖房がきいていて、立ち入った瞬間から暖かかった。  俺はソファーに深く腰かけている兄の後ろに回り込んで……  カットソーの襟ぐりから両手を突っ込んでやった。 「つっめて!!馬鹿かおい馬鹿!何すんだよ!」 「ひひひ」  悪戯成功。  すると、歯を見せて笑う俺の胸倉を兄が掴んだ。 「わっ、わー!暴力反対!」  胸倉を掴んできた兄の手首を慌てて握る。が、兄は何も言わずじっと俺の顔を見た。  不審に思い首を傾げると、兄が神妙な顔で言う。 「……何で目赤いんだよ」 「!」 「雪見に何かされたの」  ぶんぶん首を横に振る。雪見さんはずっと優しくしてくれた。 「じゃあ何、その目」  兄が俺の胸倉から手を離したので、俺も兄の手首から手を離した。  兄の指が、俺の目の下にそっと触れる。触れられた場所がひりひりした。一目見て分かったほどだから、だいぶ腫れているのだろう。  そっと肌を這う指に黙って目を細めていると、兄が言った。 「言えよ」  機嫌の悪そうな低い声。  俺は少し言葉を考えてから、一文字に結んでいた口を緩めてへらりと笑った。 「また泣いちゃうかも」 「いいだろ、今更何回泣いたって変わんねーよ」 「えー、明日目パンパンだよ。……」  話したいことは、たくさんあった。  でも正直、兄に話したらもっと泣いてしまう気がして、目なんて腫れ上がるどころの話じゃなくなりそうだった。  だから今度言おうかな、と思ってたんだけど……。  俺は兄の真っ直ぐな視線に観念して、ソファーに座った。隣の兄の顔を見て言う。 「俺の実の父親の話って、お兄は聞いたことないよね」  兄が僅かに目を見開く。  俺から話したこともないが、思えば兄から聞かれたこともなかった。恐らく、タブーの話題だと思っていたのだろう。 「話してもいい?」 「……ひなが、嫌じゃないなら」  俺は、返事の代わりにへらりと笑ってみせた。

ともだちにシェアしよう!