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Ⅲ いま、吹き荒れる嵐!⑧

黒髪の先を指に絡めた。 クルリと回すと、指先から離れた髪が一房、宵闇の瞳に落ちてサラリと揺れる。 「君達の職務内容は分かったよ」 「ほんとに、こいつらは家事手伝いでっ!」 「フゥン?」 一度閉じて開いた眼差しが、冷めた不協和音を奏でた。 「Ist es nützlich(イストゥ エス ヌッツリヒ〈役に立つのか〉)?」 お兄様?? なに言ってるのか分からない~ 「Denkst du, dass es nutzlos ist(デンスト ドゥ ダス エス ノッツロス イストゥ〈役に立たないと思いますか〉)?」 ……ヘンゼル? 「Ausgezeichnet(アウスグッツァイヒネットゥ〈優秀だな〉).」 また、お兄様? 「Bitte(ビッテ〈どうも〉).」 グレーテルまで~? うわーん、俺だけ蚊帳(かや)の外。 三人で、なにを喋ってるんだーっ 「君達の職務について質問だ」 ……あれあれ? 「料理は、なにが作れる?」 もしかして、ちょっとだけ丸く収まっちゃってる? なにがなんだか分からんが、よくやった!二人とも。 ここで、お前達の好感度をぐーんと一気に上げるんだっ↑↑↑ 「今日のお昼は、カルボナーラを作ろうと思ってます」 いいよね、ヘンゼル。 チーズの絡んだホワイトソースが美味しくって♪ 「栄養のバランスを考えて、シーザーサラダとフルーツヨーグルトも作ります」 そうだな、グレーテル。 パルメザンチーズと隠し味にピリッと黒胡椒を加えたドレッシングで、野菜をたっぷり取らなきゃな。 白いドレッシングは、見た目も爽やかだ♪ 夏はビタミンCも大事!ヨーグルトで口当たりさっぱり、果物を食べて、紫外線のダメージを受けたお肌を整えよう。 「後さ、かき氷食べね?トロトロ練乳かけ莓♪」 「いいねー。練乳の後は、トコロテンですっきりだな」 ……練乳?……トコロテン? ちょーっと、待て。 整理しよう。 ・カルボナーラ → 白 ・シーザーサラダのドレッシング → 白 ・フルーツヨーグルト → 白 ・かき氷(練乳莓) → 練乳がトロトロ白 ~~~!! 「グレーテルは、トコロテンどっち派?」 「俺、三杯酢。ヘンゼルは?」 「俺、黒蜜」 お・ま・え・た・ち~~~ 「白いトロトロのものを連呼した後に、トコロテン言うなァァァーッ!!」 「イクは……」 「イクミは……」 「「どっち派?」」 「郁巳はもちろん、白蜜だよね?」 お兄様ァァァ~~♠♠♠……… こめかみに指をあて、静かに見据える双玉に藍の火が灯る。 チリチリ、ヂリヂリ…… メタンハイドレートの色をした青く仄暗い炎が、鼓動を燃やし、焼いて焦がしていく。 「私は白和(しらあ)えを作ろうかな」 にこり、と笑った眼の奥に潜む棘が、左胸の一番深くを突き刺した。 ……………………俺の心臓、止まった。

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