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序章

誰か一人を愛し抜くなんて、到底できる人間じゃないと自覚している。 特定の女は作らずに適当に遊び歩くのが性に合っているというのに、これを理解してくれる女がいない。 今の女みたいに、他の女と遊んだのがバレる度にぶん殴ってくるやつ。 最初は「それでもいい」なんて嘯きながら、抱き合う回数を重ねるうち「私以外の女は切って」と泣き出すやつ。 俺がそいつ一人で十分だって思ったんならそりゃ別だけどな、今のところそう思ったことは一度たりともねえよ。 あいつらが見ているのは、複数と付き合うことで余裕を保っている俺だけ。あいつらが愛してるとうっとり言うのは、いつも笑顔な俺を見て。 なのに、その大好きな俺を生み出す他の女を切れと言う。 「しばらく女はいいかな」 ぽそりと零した呟きは、口元のコーヒーの海に波を立てただけだった。 ◇◇◇ 幸か不幸か、俺はその数日後男子高に転校することが決まった。 授業には出ないわ異性関係で問題は起こすわで、今通っている学校から退学通知が来たからだった。 俺としては別に中退でよかったんだが、あと一年なんだからもったいないと叔父に説得され転入する事になった。 だが、叔父の恋人の家が運営しているというその学校は確か偏差値70近いエリート校。 なんで俺みたいな落ちこぼれが、と叔父に尋ねたところ、叔父は微妙な顔をしてこう言った。 『信、お前は完璧にコネでねじ込んでもらう形になるから、学園の『雑用』一切を受け入れてくれ』 めんどくせ、とは思った。しかし俺はこの、死んだ自分の母親とよく似ている叔父にはめっぽう弱いのだ。 しかもその『雑用』さえ引き受ければ、概ね問題行動も見逃してくれるらしい。 御曹子揃いの学校だから、その大事な生徒に暴力さえ振るわなければ、あとは何時間授業をサボっても卒業させてもらえるなんていう好条件だ。 俺は、無下にはできない保護者に言われたから高校に通うだけだし、辞めさせられたらそれはそれで構わないと思っていた。 うまい話には裏がある、なんて言葉を身をもって体験することになろうとは、この時の俺は知るはずもなく。

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