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第1話 何様、俺様、生徒会長様
登校初日。
四月九日、始業式に合わせて俺はこの学園───学校法人・私立天下学園に編入した。
初めて会う仲間のまだ見ぬ顔を思い浮かべて、ドキドキワクワク──なんてことはなく、普通に気怠く校門の内側へ入る。
それにしても……でかい。
学生たちを丸々呑み込んでいく学園の門からして、一般の高校のそれとは一線を画していた。
前通っていたのは不良の巣窟──いわゆる底辺高校だったので、門にはいつも俗っぽい落書きが施されていた。
新しい制服も素材から違うのか、パリッとしていて息苦しく、あーやっぱ前の学校のがよかったなぁなんて少しでも真面目にしなかったことを今さらうっすら後悔しつつ、掲示板で指定された教室に足を向けた。
「あれっ、見ない顔ぉ」
黒板の前に座席表が貼り出されていたので、それの通りに席に着いてスマホを見ていると、軽い調子で声をかけられた。
「転入生かな? 俺は皇 琥珀 。よろぴく~、ぴくぴくー」
「…………」
あっこいつ変な奴だ。
失礼だが、俺は真っ先にそう思ったのだった。
このお上品な学校の落ち着いた雰囲気にそぐわない、真っ赤な癖っ毛。
なんていうか、不良の染めとか天然の赤色じゃなくて、赤ペンキを頭からふっ被ったような、そんな目に痛い色。
そしてよくよく見れば異常に整った顔立ちをしているようだが、それを台無しにするドでかいサングラス。校則違反だろそれ。
何をどう間違ったらお坊っちゃまがそんな有り様になるんだと問いただしたくなるような、見た目から怪しすぎる男だった。
「転入生くんは?お名前」
「織田信。よろしく…つーか聞きたいんだけ」
「マコッちゃんね!よろ、ヨロヨロ!あをによし~」
皇は手をひらひら振りながらどこかに行ってしまった。人の話を聞けよ。あをによしってなんでだよ。
春一番に激突されて一方的に揉まれたのち過ぎ去っていったみたいな災害じみた真似をした男は、廊下に並んでいた妙に可愛い顔をしている男ばかりの集団に囲まれて、陽気に歩いて行った。
皇。スメラギ。
俺がさっきあの天災に訊きたかったことは、その非凡な名字に関することだった。
「皇に好かれるなんて、凄いなお前」
「あ?」
今度は後ろから話しかけられた。今登校してきたらしい。
振り向くと、こちらは話しやすそうな、つまりは常識のありそうな普通の男だった。
運動をやっているんだろうか、恵まれた体格に男らしく刈り上げられた黒髪。
そしてこれまた男前が、まさに好青年といった笑顔を浮かべていた。
「ああ、悪い。俺は前田 俊太郎 ってんだ。お前は織田だろ、貼られてた紙で見たよ」
「おう。前田な、覚えた」
やっぱり普通の奴だ。見た目のレベルは高いが。
鞄を片付けて座った前田は、第一印象ままの快活なしゃべり方で話してきた。
「──で、あの皇琥珀って奴は、あんなでも成績はトップクラス、家柄も文句なしのスーパーマンってわけなんだ」
「へえ。キレてる奴来たなって思ったけど、人は見かけによらねぇもんだな」
前田は話しやすい奴で、会話を始めてすぐこいつとは仲良くやれそうだと確信した。
学園のしくみや行事についてなども教えてもらい、ついでにあの皇に聞こうとしていた件も前田に聞くことにした。
「皇、ってのはよ──」
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