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第1話
前日、俺はこの学園の経営者である理事長・井草 天下 女史に呼び出された。
名目上は制服や教科書などの支給のためというものだったが、実際は『雑用』をさっそく押し付けられたのだ。
雑用といえば書類整理や掃除の類いか、とタカを括っていた俺は。
『生徒会長・皇 昴流 を陥落せよ』
珍妙な命をつかまつり、顔をしかめる羽目になったのだった。
───それは雑用とは言わないし、陥落ってどういう意味だ。
そんな意見を当然俺は申し上げたが、天下の理事長殿に聞き入れられることはなかった。
『我が学園は今──重大な局面を迎えている』
凛とした面持ちで机に頬杖をついている井草理事長は、俺の叔父の恋人の母親だ。
穏やかな雰囲気を持つ叔父の恋人とは違い、理事長は冷たさと刺さるような棘を感じさせる。
そのほとんど温度のない瞳で俺を見据え、書類の束を寄越してきた。
パラパラ捲ってみると文字が多くてウゲッとすぐに閉じたが、「見ろ」と淡白に言われては従うしかない。下手に逆らわないのは、叔父たちのためでもある。
立ったまま眠くなりつつ書類を見ていくと、まあぼやっとはしているが大意は掴めた。
『これ、生徒会費用どうなってんだ?』
◇◇◇
「皇、ってのはよ──ここの会長がたしか、皇 昴流っていうんじゃなかったっけか」
「おっすげぇな、もう知ってるのか」
この学園では、私立ということもありかなり独特な生徒自治が行われている。
普通の高校では生徒の一存では決められないような事案──例えば、一年の予算の決定や行事の計画の一切、それからなんと個人の停学・退学までも、生徒会の意向がある程度反映されるらしい。
だから自然ここの生徒会長には多大な権力が与えられるわけだが、渡された資料を読んでみると、その権利の濫用としかいえないような金遣いの荒さが目立った。
「皇会長は……なんていうか、元はとても優秀な会長だったんだけどな」
前田は会長になにか個人的に思うところがあるのか、少し寂しそうな顔をして言った。
生徒会が決算報告した去年の経費は、総額およそ八百万。最初、桁を見間違えたかと思った。
「去年の春転校してきた、水森っていうのに心底惚れちまって…この水森が、なかなかどうして厄介な野郎でさ」
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