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第1話

理事長の話によると、今聞いた「水森 蘭」というたった一人の男子生徒の出現によって、それまでなんの滞りもなく進んでいた行政が独裁政治化してしまったという。 こんな話が現実にあるのかと俺は思ったが、皇会長を始めとした生徒会役員たちが───全員この水森に惚れ込んでしまい、内乱が起きているそうだ。 誰が水森を手に入れるのか。 役員らのチームワークが肝要な生徒会運営が、このくだらない痴情のもつれによってスムーズにいかなくなり、 会長に至っては生徒会予算と騙って金を余剰に集め水森を祭り上げる独善的な学校行事まで行う始末。 それに歯止めをかけることこそが、俺に課された責務、『雑用』、らしい。 「なんであの皇があんなことになっちまったのか……。 ああそうそう、さっきお前に絡んでた赤い頭の皇琥珀の方は、会長のいとこにあたるんだ。会長の親父さんの、弟の息子。 皇の今の家長は会長の父親だから、家を継ぐのは本来なら会長のはずなんだが……今のままだとそれもどうかって感じだ。 かといって皇琥珀の方もなぁ……」 俺は皇家の一族についてはなにも知らないが、あの予算がおかしい書類とさっきのクレイジーなペンキ頭を思い出して、皇家終わったなと思った。 まあ俺の知ったこっちゃないが。 しかし会長を陥落しろと言われた以上はなんらかの手を使って、そのアホ会長をどうにかしなければならない。 そもそも陥落の意味が、そいつを陥れることなのか、懐柔するということなのか不明なのでとりあえず昴流のことを調べるくらいしかできないが。 「ああ、なんか転入生のせいでって言っちまったみたいになってるけど、その水森本人は全然いい奴なんだ。 むしろ、あいつ自身は女子が好きなのに男にばっか寄られて気の毒っていうか」 「ふうん。どんな奴だ、やっぱ顔可愛いとかか?」 会長お気に入りだという水森についても、知っておくべきだろうと判断した俺は前田に食い下がった。 ところが妙な勘違いをした前田は、 「…いや、やめとけよ。確かにお前めちゃくちゃ顔いいし自信あるんだろうが、水森に手出したら役員の回しもんにリンチに遭うぞ」 と心配そうな顔を見せたので、「野郎抱く趣味はねぇよ」と釘を刺しておく。 「俺が興味あんのは会長さんのほう。だから、その会長がご執心の水森のことも知っときてぇってわけだよ」 「お前……そっち……?」 また変な方向に考えてやがるな。 “趣味悪い”とでも言いたそうな前田に苦い思いをし、ソッチの誤解はなんとしてでも解いておきたいと思った。そのため、適当な口八丁をのべる。 「俺、会長嫌いだと思ってな」 まずこいつが誤解してるのと真逆の言葉を使った。 実際のところは俺は皇を直接この目で見たことすらないんだから、好きでも嫌いでもないのが当然なのだが、この際きっぱりと断言しておく方が面倒がないだろう。 好きになることは無さそうだしな。 嫌いだ、と言った瞬間前田は「えっ!?それはまずいって、この学校でそんなこと明言してたら潰されるぞ」と慌てた素振りを見せるが、気にしない。 「せっかく心機一転、最後の学生生活を謳歌しようとこの学園に来たってのに──生徒会の職権濫用だって?色恋にトチ狂って? ハッ……笑わせるぜ。 そんな無能ども、俺が片っ端から足元掬って総辞職させてやるよ」 「───ほう。威勢がいいなァ、転入生?」 『!!!!』 生徒たちの間に、大きな波が立つのを感じた。

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